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評者◆編集部
こどもの本棚
No.3617 ・ 2023年12月02日




いえを奪われたウクライナの子ども

▼いえ あるひ せんそうが はじまった
▼カテリナ・ティホゾーラ 作/オレクサンドル・プローダン 絵/すぎもとえみ 訳

 二〇二二年二月二四日、ロシア軍がウクライナに侵攻を始めてから,二年目の冬をむかえます。この絵本は、ウクライナに住んでいる子どもたち全員が体験している戦争と、戦時下の暮らしを伝える一冊です。
 ぼくとパパとママ、そして犬のテレシク一家がすむいえは、家族を爆撃からまもってくれました。ぼくたちは助かりましたが、いえは焼けてしまいます。安全な場所を探さなくてはなりません。避難所や知人・親戚のもとを頼り、さらに旅を続けますが、パパは兵士として、ウクライナにとどまらなければいけません。
 パパはぼくにいいました。「わすれないで。あのいえですごした ひびを」「きみがすきだった ひとたちのことを」「きみを すきだった ひとたちのことを」。
 従軍するパパは、「こころのなかの きみのいえが すすむべき みちを おしえてくれる」とぼくに告げて任務に向かい、去っていきます。
 ウクライナのたくさんの子どもたちが、ロシア軍の攻撃でいのちを失い、いえを奪われました。いまこの瞬間も、いえを、故郷を、家族を失いつづけています。この絵本は、団結と抵抗のシンボルとなったいえが、苦しいときに人びとを支え、心に希望の灯をともしてくれることを教えてくれます。ウクライナという子どもたちのいえを守るパパのメッセージは、私たちにできること、しなければならないことは何かを伝えます。(9月刊、A4変型判三八頁・本体一七〇〇円・汐文社)


神さまのプレゼント イエスさまの絵本
▼クリスマス たいせつな おくりもの
▼メアリー・ジョスリン 文/クリスティーナ・スワーナー 絵/女子パウロ会 訳

 今年もクリスマスが近づいてきました。クリスマスのプレゼントは何かな? と、子どもたちはわくわくしながらその日を待っています。そんなクリスマスは、神さまがすべての時代、すべての世界に大切なプレゼントをくださった日なのです。クリスマスはイエスさまの誕生日をお祝いするときですね。そう、神さまのプレゼントとはほかでもない、イエスさまなのです。
 この絵本は、神さまからわたしたちへのプレゼントとしてのクリスマスを、やさしくすてきな絵とともに伝えてくれる一冊です。イエスがマリアとヨセフにどれほど大切に育てられ、天使や動物に祝福されたか。絵本に広がる挿絵は、読者をクリスマスへといざなうかのようです。
 お話の作者メアリー・ジョスリンも、絵の作者クリスティーナ・スワーナーも、子どもの頃に夢中になったこのお話を一冊にしてみたいと願っ
たそうです。神さまが世界を祝福され、御子イエスがお生まれになったというお話は、天におられる神さまに、地上の平和を祈り、歌う人びとの幸福を願う一冊です。(8・15刊、26cm×22cm二六頁・本体一一〇〇円・女子パウロ会)


名作のおはなしが新装版でよみがえる
▼手ぶくろを買いに
▼新美南吉 作/羽尻利門 絵

 今年は児童文学作家の新美南吉の生誕一一〇年、没後八〇年にあたります。それを機に、名作『手ぶくろを買いに』がここに装いも新たに蘇りました。
 今年も北の地方では雪が降り始めました。そんな雪原を、きつねの母子が駆けていきます。子ぎつねは雪と遊んで、手がすっかりかじかんでしまいました。母ぎつねが待つ洞穴へ帰ってきて、こういいます。
 「おかあちゃん、おててがつめたい、おててがちんちんする」。
 母ぎつねは子どものために町へいって、毛糸の手ぶくろを買ってあげようとします。でも、むかし、おひゃくしょうさんたちに追いかけられ、いのちからがら逃げた記憶が邪魔をして、足がすすみません。そこで、子ぎつねをひとりで町にいかせることにするのです。
 さて、子ぎつねはどのようにして手ぶくろを買うことができたのでしょう。寒い寒い冬の日に、あたたかい手のぬくもりを感じる、そんなお話をこの絵本で味わってみてください。(10・30刊、A4変型判三二頁・本体一六〇〇円・新日本出版社)


「謎と秘密」の字林へと分け入る
▼世界 文字の大図鑑――謎と秘密
▼ヴィタリ・コンスタンティノフ文・絵/青柳正規監修/若松宣子訳

 文字の発明は約五五〇〇年前の楔形文字にさかのぼります。石や骨に模様を刻んでいた時代に始まり、世界中で生まれた文字は長い年月を経て、いまやコンピュータによって一五万もの文字を表示できるようになりました。この絵本は、ラテン文字やギリシア文字、キリル文字やグルジア文字、漢字やアラビア文字など多種多様な最初の文字の世界を、言語や社会、歴史や文化の背景から説き起こした、多彩な内容に満ちた絵本です。世界一一カ国で刊行され、ドイツのもっとも美しい本賞にノミネートされ、台湾OPEN BOOK優良図書賞を受賞するなど、評判のビジュアルブックです。
 作者のヴィタリ・コンスタンティノフさんはウクライナ生まれのアーティストで、文字の歴史をみごとな漫画やイラストで表現しています。文字の面白さもさることながら、さまざまな文字の成り立ちから展開までを図解してくれています。まさにサブタイトルのとおり「謎と秘密」の字林へと分け入るための、素敵なガイドブックの登場です。(10・18刊、A4変型判七二頁・本体二九〇〇円・西村書店)


若い世代におくる「少年文学」の世界
▼少年文学再考――講談社文化を中心に
▼想田正 著

 この本は一見して、児童文学というジャンルに分類されるかもしれません。ですが、著者の想田さんは、「少年文学」という言葉をいまによみがえらせ、そのジャンルの世界を解き明かしてくれます。歴史をさかのぼれば、一九一四年から四五年まで刊行された講談社の『少年倶楽部』をはじめとして、それに続く戦後の『少年クラブ』など、少年文学は近代日本の出版界に大きな峰を築いていたことがわかります。想田さんは少年時代に『少年クラブ』に親しんで育ったそうです。その経験をもとに、改めて少年文学を考察の俎上にのせて論じたのが本書です。
 では、少年文学とは具体的にどのようなものなのか。「ローティーンを対象として、未来を志向し、真善美をめざす現実主義的な内容をもつこと、その叙述・構成は明快かつ平明であること、そして娯楽性を伴ったものである」と想田さんは定義づけています。本格的に成立したのは明治期、児童ジャーナリズムの誕生によってです。本書ではその興隆から衰退へと歴史をたどり、代表的な個々の作品を紹介しています。
 『少年クラブ』の傑作は数あれど、横溝正史の『大迷宮』や久米元一の『魔女の洞窟』などが代表的です。北海道の沙流川上流の洞窟にすむ魔女から、東京の隅田川や月島、勝鬨橋へと、迷宮物語の舞台は列島を縦断して大展開します。本書はこうした流れを文字で再現してくれます。
 少年文学の探究は『巌窟王』や『ああ無情』など世界名作全集にまで及びます。若い世代の読者にとっても、発見に満ちた読書案内として活用できる一冊です。(3・13刊、四六判二二四頁・本体一八〇〇円・展望社)


手袋屋さんがくつ屋さんになった
▼世界でいちばんリクエストのおおいくつ屋さん
▼十河孝男・十河ヒロ子 文/本田亮 絵

 この絵本は、高齢者用ケアシューズ「あゆみ」をつくったくつ屋さん、十河さん夫妻のお話です。もともと十河さんの会社は、手袋を作る会社でしたが、スリッパの製造も手がけるようになりました。さらに、ルームシューズの製造に力を入れ、いまや絵本の題名のように「世界でいちばんリクエストのおおい靴屋さん」になりました。
 「ころびにくいくつをつくってほしい」。はじめは、幼なじみのたっての願いで、くつ屋さんがつくったことのない、「転びにくいくつ」を完成させたところからお話がはじまります。老人ホームのおとしよりがよく転んで心配だからと、十河さんの手袋工場に依頼が来たのです。
 十河さん夫妻は、「手袋屋にできるわけがない」という工場のみんなを説得し、老人ホームの施設内を歩くおとしよりの足を朝から晩まで、半年も観察し続けました。そうして、転びやすい五つの原因をつきとめます。それをもとに、改良に改良をかさねて二年、ようやく「転びにくいくつ」を完成させたのです。
 でも、一難去ってまた一難。五〇〇人以上のおとしよりの足を見てきた十河さんは、一〇人に一人、左右の足のサイズがちがう人がいることに気づき、はてと困ってしまいます。
 「よし、左右のサイズがちがうくつをつくろう!」
 こうしていくつかのサイズのくつを片方ずつつくり、注文にあわせて左右のサイズがちがうセットを工場から直接販売することにします。手袋づくりをやめ、「転びにくいくつ」と「左右サイズのちがうくつ」をつくりはじめたのです。はたして注文は来るのか、工場はやっていけるのかと、みんなは不安でしたが、杞憂に終わりました。歩けるくつをまっていた人たちが、全国にたくさんいたからです。こうして、「世界でいちばんリクエストのおおい靴屋さん」が生まれたのでした。
 実話にもとづく「だれひとり取り残さないくつ屋さん」の挑戦を、この絵本で多くの読者のみなさんに知ってほしいです。(9・15刊、B5変型判四八頁・本体一八〇〇円・合同出版)







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