書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆越田秀男
本邦最後の“知識人”大江健三郎を特集(「群系」)――家光はなぜ高取藩を立藩したか(「異土」)、戦後と併走700号(「北斗」)
No.3616 ・ 2023年11月25日




■本邦最後の“知識人”逝く――群系50号では『巨大な謎』と題し大江健三郎特集。勝原晴希さんは『個人的な体験』を取り上げ、畸形の赤子から逃げようとする主人公の意識に立ち現れた「なにかじつに堅固で巨大なもの」、この啓示のごとき心象に促され、主人公と赤子は一体化し得た、と論述。大江にはこの作品とは反対の結末をたどる『空の怪物アグイー』も。星野光徳さんは『セヴンティーン』までの作品を連載①として取り上げた。文學界誌に掲載された同作品第二部『政治少年死す』はガリ版刷りで読んだ。浅沼稲次郎刺殺事件、風流夢譚事件と重なり、幻の作品に。復活は2018年。二作品は刺殺事件を題材に?実発行時期を考えると事件に関係なく構想・執筆したはず、と星野さん。間島康子さんは『森の奥の谷間の燃えるトゲ』と題し、大江の原風景に斬り込んだ。
 将軍家光は天草の乱後、大番頭の植村家政を大名として立藩。城は本邦最大の山城。また戦が?――『和州高取城と天誅組』(秋吉好/異土22号)。司馬遼太郎の初期作品に高取藩をネタにした『おお、大砲』、史実として疑問だらけ。秋吉さんは文献を精査、検証。注目は“元和の一国一城令”の企図に相反する立藩で、司馬の小説に限らずこれまで納得のいく説なし。秋吉さんは、将軍秀忠が駿府城の頼宣を紀伊和歌山城に移封した、という、天下統一後の火種に着目、家光の代までくすぶり続けた。〈創業〉後の〈守成〉の難しさはいつの世も。ちなみに八代将軍吉宗は頼宣の孫、以下一四代まで頼宣の血統。
 「北斗」700号、昭和24年9月創刊。前駆誌「新樹」は昭和21年3月。竹中忍さんは『マイナンバーカード綺想曲』と題し、一億総背番号制の看板書き換えにすぎないと、デジタルファシズム政策を論難。笑劇「私の地獄落ち」一幕を付録にして地獄の釜茹温泉を満喫、獄落極楽。ゲンヒロさんの『平塚らいてう』は連載7に。日本女子大学校入学、バスケットボール体験! キリスト教に接近するも肌に合わず。寺田繁さんの『幻の直木賞作家 小説岡戸武平』は連載9。岡戸、『小泉八雲』にとりくむ。
 フレディー制度が導入されて10年。え? なにその制度――『ここにいてほしい』(小路望海/R&W34号)。既存の婚姻制度に併設された契約制友好的関係保証制度。性別フリーで契約を結べば、養子を引き受けられ、子作り養育に対する国の給付は婚姻と同等。契約解除は相手に拘束されず、複数契約可。画期的! それで成果は? コミュニティの拡大に貢献した。でも中には「ここにいてほしい」と懇願しても冷たく遇われる例も。皆が幸福というわけにはね……。どこの国の話? 日本。いま西暦何年? 2038年。
 巨大化コオロギの昇天――『メスキュード箱のなかに棲むコオロギの物語』(奥谷梅子/組香8号)。おたんこナースの戸締まり・後片付けの不始末を突いて病院診察室に侵入、棲みついた〈コロ美〉、栄養剤の残渣で成長。と、片思いの〈クリ助〉が探し当てて野に帰るよう説得、拒否。ある日看護婦長が箱の中を覗き、ギャー! 昆虫好きの医師が庭で〈コロ美〉を見つけ捕獲、パク、ウマ! 〈コロ美〉は先生の細胞となり生き続けた。
 父の納骨が済むと、母は「俺が父だ」と宣言――『俺たちのやり方』稲葉祥子/雑記囃子28号)。少女趣味、虫も殺せない母が〈俺〉に変身、大学生の兄と高校に入学したての弟は愕然。突然の父の死がもたらした錯乱!? 趣味以上、実益もある陶芸を放って父が経営していた文房具店を引き継ぐ。二階の父の書斎、雨戸の戸袋に蜂の巣! 尻込みする兄弟を恃まず撃退。後始末は俺、弟、弟の彼女で。蜂・巣の残骸は、庭で読書に勤しんでいた兄の頭に振りまかれた。
 入れ歯が命を救った――『家庭の事情』(小川ひろみ/海峡派158号)――マンション一階で暮らす〈寛子〉、唯一の家族、母は認知症で老人施設。職は博物館事務、定年後再雇用で2年経つも、コロナで休館、出勤時居座っていると陰口、カッとなって退職、就活無残。夏、庭で草むしり、最上階の7階から洗濯竿挟み、この前はふきんも、ムカッ! 老婆がやってきて、ごめんなさいね。愚痴の聞き役に。息子の自慢話と嫁の悪口。うんざり、口げんかに。年末、再就職果たすも孤独。と、庭に入れ歯落下。見上げると……救急車、くも膜下出血、無事生還。春、母との面会が可能に。私を寛子と分かってくれるかしら……。
 段々と子供にかえっていく父――随筆『冬の向日葵 父の介護ノートから』(武田久子/SCRAMBLE44号)。92歳の父、認知症が進む。母も足弱、でも二人一緒の時は姉弟の介護の負担はそれほどでも……母が玄関先での骨折、事態は険しくなる。しかもかかりつけ医が骨折を見抜けず。ほぼ寝たきり、夫婦別部屋に。父は「母ちゃんはどうしよる」を連発。妻恋、母恋。骨折が分かり入院へ。冬、田んぼの端に向日葵、寒風になぶられながら。もう少し暖かくなったら、父を車椅子に乗せて見せてあげたい。
 寄り添って生きる――『ままのたね』(岬龍子/絵合せ6号)。土木現場の監督だった〈俺〉、会社と現場の板挟みで心を壊し入院、〈弓子〉に出会う。思春期のトラウマで心を閉ざすも俺だけには慕ってくる。《二人でもう一度娑婆で生きてみたい》、弓子といると俺自身の発作は姿を現さない。二人で気晴らしに姪浜へ。そこに住む叔父夫婦の家を訪問。夫婦は共に視覚障害、夫の鍼灸マッサージでギリギリの生活だが、暖かく迎えてくれた。《俺には目的ができた》《木工所の仕事をもっと励もう》。
 愛餐のメインディッシュ――『雲雀料理~朔太郎と遊ぶ~』(尾沼志づゑ/層138号)。「月に吠える」の中に謎めいた雲雀料理。歌人小池光が見事な解説――《雲雀料理なんてあるべくもない。詩人の幻想の食卓だ。閉ざされたこころの窓をふと開いて初夏の空を室内に》導いた。雲雀料理は歌人達に感染。その中の一首――《前橋の「雲雀料理」を売る店をあまたたびわれ夢におとなふ》(岡井隆)。昨年正月急逝した弟に捧げる尾沼さんの歌――《春なれば雲雀料理を食さむと そのまま帰らぬ弟ありき》――合掌。
(「風の森」同人)







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約