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評者◆添田馨
〈嘘〉は戦争につづく道(2)――“嘘”の介在が必然化される理由
No.3613 ・ 2023年11月04日




■ロシアがウクライナに侵攻した際、その直前まで、現地のロシア軍部隊の指揮官や兵卒たちは、それが本格的な軍事侵攻ではなく、たんなる訓練の一環なのだと信じこまされていたという。具体的な攻撃命令が出たあとでも、現地司令官ですら自分たちの攻撃目標がいったい誰なのか知らされていなかったという証言もある。信じがたいことだが、ロシアは自国の最前線にいる部隊の兵員をこうして欺くことによって、この大規模な侵略戦争をはじめたことになる。
 なぜ、このような“嘘”が必要とされたのだろうか。相手側に作戦行動の情報が事前に漏れないようにするため情報統制をしいたのだとの理由も勿論あるだろう。だが、ロシア側の“嘘”は侵略戦争を「特別軍事作戦」と言い換えるなど、作戦遂行面でのそうしたテクニカルな次元に止まるものではなかった。
 こういう場合“国家は嘘をつくものだ”ということが了解されれば、戦争の始まりになにゆえ“嘘”が必要とされるのかもおのずと納得される。戦争の本質が特殊合法的な殺戮にあり、同時に殺人は人類普遍の絶対悪である以上、それを容認せざるをえない「戦争」は、仕掛ける側にとってはあらゆる方法を駆使して、その絶対悪的性格を扮飾する必要があるからだ。そこに“嘘”の介在が必然化される理由がある。
 武力の行使は、戦争全体のなかのきわめて限定された技術的領域であって、それよりもむしろ“嘘”による社会的編成力の一般化された形態こそが、戦争というものの体制化には欠かせない普遍的根拠を擬装しうるのである。プロパガンダの有用性はこの点にある。
 いかなる独裁国家といえども国民の広汎な支持がないまま、大規模な戦争を遂行することは不可能である。ましてや、それが防衛戦争ではなく軍事侵攻であれば、大義名分としての“嘘”は、国民世論の動向を戦争支持に誘導したい政権側の極めて効果的な手段として機能する。
 “嘘”は泥棒のはじまりではなく“戦争”のはじまりなのである。
(続く)







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