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評者◆添田馨
〈嘘〉は戦争につづく道(1)――冷静な批判力こそがいま求められている
No.3609 ・ 2023年10月07日




■「台湾有事は日本有事」という言葉がいつのまにかひとり歩きしている。元々は昨年亡くなった安倍元総理が二〇二一年十二月に台湾で開かれたシンポジウムのオンライン講演のなかで口に出した言葉だった。
 「台湾有事」がなぜ「日本有事」なのか? 誰もその正確な意味を知らないと思う反面、正面きった反対意見が幅広くわき起こっているとも言いがたい。そのことはつまり、多くの人が心のどこかでなんとなくこの言葉を曖昧に受容している実態を浮き彫りにする。多分そうなんだ、くらいに。
 恐らく私たちがこの言葉から受け取るのは、意味のリアリティではなく、レトリックそのものが喚起するイメージなのだろう。
 遠くない将来、某月某日、予告もなく人民解放軍の大部隊が台湾海峡を渡り、陸・海・空の三方面から台湾本土に侵攻を開始、独立国である台湾とのあいだに戦端が開かれる。応戦する台湾軍の動きを支援すべく極東配備の米軍が即刻軍事介入し、普天間など沖縄の米軍基地はまさにその最前線となる。戦火はやがてわが国の先島諸島にも及び、島民の一斉避難が発令され、わが国は否応なくこの“中台戦争”の構図のなかに組み込まれていく……。
 言っておくが、これはぜんぶ想像上のシナリオであり、現実的な根拠とてない〈嘘〉の話に過ぎなかった。だが、翌二〇二二年二月のロシアによるウクライナ侵攻という火急の事態がもたらされ、この「台湾有事」はにわかに現実味を帯びて語られるようになった。“根拠”よりも“状況”が私たちの潜在的な危機意識を心の深いところで刺激するようになったのである。
 これはよくない傾向である。大規模なパニックのなかでは、正常な判断力がしばしば損なわれてしまう事態が、過去に何度もあったからだ。百年前、関東地方を襲った大地震のさいに、パニックに陥った国内各所で半島出身者に対するいわれのない流言飛語が拡散され、それが現実の殺戮行為にまで及んだことは紛れもない歴史上の事実である。冷静な批判力こそがいま最も求められている。
(続く)







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