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評者◆凪一木
その205 爆発事故と私
No.3606 ・ 2023年09月09日




■この連載第二回に書いた、私の起こしたボイラー爆発事故について、書き残したことがある。連載終了前に記す。
 手動で、直接にスイッチをONにして起動したのは私以外の誰でもない。そして悪魔に支配されたとか、魔が差したとか言うつもりもない。だが私の責任は何%なのか。
 二〇二四年開業を目指す地上二六階、札幌の高級ホテルビルが、一五階まで進んでいた工事を、この三月に「やり直し」となった。発注者のNTT都市開発から指摘され、施工者の大成建設が調査。数々の不良が見つかった上に問題に既に気づいていた。現場担当の大成建設社員は、嘘の報告をしていた。
 「工期が厳しくなるため、数ミリのズレであれば問題ないと思った」
 札幌では、同じく二〇二四年に開業のエスコンフィールド北海道で、建設推進の株式会社北海道日本ハムファイターズが、公認野球規則に抵触するという不正が起こる。
 事故や改ざん、不正は、抑圧とパワハラの中で起こる。政治家に介入や圧力をかけられてマスコミは、責任を持って自由を脅かされないように努めることができるか。それは、サラリーマンも、弟子も、下請けも、子どもも変わらない。社長に、師匠に、元請けに、親に、物言う姿勢を躊躇してはならない。
 私の場合は、指示を無視して、勝手に暴走して運転したかのように、のち上司から脅迫される。事故後すぐに調書を取られたことが幸いもしている。事故前から、爆発までの指示内容や出来事を時系列で、A4の白紙四枚に、私はびっしりと書いた。
 そもそも点けてはいけないはずの一号機について(もう亡くなってはいるのだが、マザコンの)ノートルダム男は、なぜ「点けろ」という指示を出したのか。業者から指示も出ていないのに、独断で判断したのだろうか。これまでも、その日に点ける機械がどれなのかについて、一人ひとりが経験値によっての予測のもと、大まかに「分かって」はいるものの、計画表などは作成されていない。何をどうするかの周知を徹底させていない。報告、連絡、相談のホウレンソウが、まるでない状態で働いていることに事故やトラブルが起因していることも確かであろう。その日はどちらの発生機を運転するか。二台同時なのか、明日はどれ、或いは、週間計画、月間計画、そういったことについて、皆で話し合うような機会も設けずに、独断で決める状態である。しかも、前日の夕方にこっそりと小声で囁くように指示が出されるような仕組みで、しっかりとした安全システムが働いてはいない。
 業者とのやり取りについて、その日一号機を運転して良かったのかどうかについて、こちらはやり取りする立場ではない。ノートルダムは何故、「点けて良い」と指示を出したのか。まずはそこを知りたい。そこが明らかにならないと、安心して仕事が出来ない。
 間違った指示を出しても、その指示を受けた者が、指示者の間違いに気づかないというミスで事故が起きた場合、指示された人間の「(支持者の)指示ミスに気付かない」という責任なのか。指示した人間の責任はどうなのか。
 指示された人間が指示した人間のミスに気づくには、今後しっかりとした初期確認、動作確認、配置確認など、さまざま改良、改正の余地はある。或いは、知識不足解消のための細かい勉強や現場経験の質量徹底など、資質の問題があったとしても、(よほど“向かない”者は在職を解かれても仕方ないとは思うが)努力と励行で改善できるものだ。
 だが、「指示を誤る」という指示者のミスについて防ごうと思うと、やはりノートルダムのような男に独断決定させるのは今後避けるべきであろう。
 私は、病院側の職員の前で、「(指示されたとはいえ)この状態で運転するとは何事だ」と、ノートルダムに怒鳴られた。「この状態」については、ノートルダムこそ知っていたのではないか。中央監視室内での怒声ならばまだしも、警備やその他の病院関係者のいる前で、このバカ者(凪一木)が一人で勝手に誤って事故を起こしたかのような印象を与える責任操作の演出である。
 その通り、直後の電話で、「うちのバカが一人で勝手に運転してしまったせいで」と相手方の人(業者か何かは分からないが)と話をしていた。
 私は、ビル管理という職種に幻想を持っていた。指示された内容について、それが絶対とは言わないが、二重三重の安全装置が働いて、たとえ誤って運転ボタンを押したとしても、止まるだろうという蓋然性の考えを持っていた。もし運転不可なものならば、「運転絶対ダメ」とか、「禁止」「さわるな」などの貼り紙や札を設置して、触らせないようにするか、もしくは、運転できないように、責任者に指示や依頼をしているはずだ。悪意のある人間の可能性を含めて取るのが安全装置というものだからだ。点検作業中の状態ならば、たとえノートルダムのように間違った指示を出す責任者がいようが、本来は業者がメインスイッチの入らない状態にしておくものだったのではないか。稼働してはいけないものについて、禁止の札や通知を徹底させる。つまり、点けてはいけない機械が作動するとは思っていなかった。いや、今いるA省ではうるさいほどに徹底している。
 今さらだが、異常時の手順書を作成するべきだった。責任者のノートルダム以下、上司全員の連絡先の無知について以前から問題視していた。だが、事故時なお知らされていなかった。事故当日も警備から詰め寄られて、私も同僚たちも連絡出来なかった。
 また、どの業者に連絡をして指示を仰ぎ、どう対応するかについて、さらに警報発報時の操作要領や対応について資料が常備されていない。完全な中央監視室マニュアルによって、それぞれの施設の設備員全員が均一なメンテナンス作業を行いうるように教育することが出来るとともに、新人のビル管理員に対して中央監視マニュアルを活用しての完全な現場教育をさせるようにしていかなければならない。
 以上の提案を、会社に直訴した。なのに何の改善もされなかった。
 情報が行き交っていれば、防げた事故でもあった。現に一号機については未だ作業中で、翌日に最後の点検が入る予定だという話を同僚から事故後に聞き、その報告をノートルダムにしようとしたら、今忙しいと怒鳴られて、事故当日に運転ボタンを押す私の耳には、前日夕方からのノートルダムの「点けろ」という指示以外の情報は入ってきてはいなかった。「事故の裏には二九の」というハインリッヒの法則そのものが、当て嵌まる現場であった。とにかく死者が出なくてよかった。
 死人に口なしではあるが、ノートルダムは一号機の状態を把握していたと私は思っている。それほどに怖い世界だと記しておく。
(建築物管理)







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