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評者◆凪一木
その200 ビルメンテナンスをぶっ壊す
No.3601 ・ 2023年07月29日




■官報は誰でも閲覧できるものだが、ほとんどの人は目にすることをしない。令和三年一月×日の「落札」者等の公示には、A省について、予定価格二一億四〇〇〇万を一九億五九八万円超で落札とある。
 三年契約であるから、一年で約六億円。実のところビル管理は派遣業に近いので、一〇〇人いても一〇〇等分するなら、一人当たり年収六〇〇万円となる。実際は、濃淡の差がある。現場にいない本社の人間が、社長も含めて「ある割合」を貰い、或いは、現場であっても、それぞれの格差があって、最も過酷に仕事をしている清掃の人たちは、微々たる金額であり、しかも二〇億という金額も、三年という契約年数も、その他の裏の事実も知らされていない。いや、私だって無関心で過ごせば同じで、落札業者は、同じ建物内の上層階に二人いるだけであり、地下の私は顔も見たことがない。
 官庁の仕事の少ない理由は、業者に任せるからである。民間はそうは行かない。業者に任せるとお金がかかるから、なるべく自前、つまりビル管理の仕事の範囲内でやってもらおうとする。A省では、サミット関連で今、講堂をロジ室として使用している。これまでも不点灯だったのだろうけど、お客さんが多数来て、講堂の蛍光灯が四本球切れしているとの連絡あり。その電話が一七時である。「もう、時間が遅いから明日、見に行きます。机があるので、交換が無理でしたらそのままにします」と返答。これがもし、民間のビルならば、この返答はあり得ない。絶対にその日に交換する。官民には随分と差がある。内実を言えば、報酬の二重取りであり、要らない部署があると言える。
 来年度の入札は、ほぼ無理だと分かっているのに、誰もその後の対策や準備をしていない。私もそうだ。成り行き任せというか、ジタバタしても始まらないと、そこはもう高年齢者の諦めもあり、泥舟の上で、「夕陽がきれいだ」などと眺めている状態だ。
 A省の同僚は、慶応病院勤務(Tエンジニアリング在籍)時に、社長が逮捕された。全員解雇となり、横田基地の現場に異動も、次の入札でアウトとなる。社長は、ビル管理とは別の水道管工事もやっていて、受注に際し、八千代市長と談合していた。同じ業者が長く続くと、癒着は起こり得る。そして美味しい部分は上に流れる。ビル管業界の体質を変えることはできるのか。清掃さんと社長さんと同じ報酬を。
 NHKをぶっ壊す、というのは、何も立花孝志に始まった言葉ではない。四〇年以上前に、浪人時代の私も「NHKは要らない」と言っている。そのとき、友だちは、こう言い返してきた。
 「だけどNHKにも良いドラマやドキュメント番組がいくつもあって、それが失くなるのはもったいない」「作っているスタッフは、NHKじゃなくたって作り続けるよ。定年退官後に東大から、マルクス経済学の宇野弘蔵が法大に、フランス文学の渡辺一夫が立大に移ったように、東大が消えても、教授が食い詰めるわけじゃないだろう。海外もあるし」「そりゃそうか。だけど、NHKの潤沢な製作費のもとでなければ番組は作れないのでは?」「受信料が、ドラマやドキュメントを作る人たちにしっかり流れているのならイイさ。背広組にピンハネされた分が正常化されるのならば、むしろ今よりも良くなるよ」「なるほど。でも、紅白歌合戦は失くなるよね」「紅白よりもっと良い歌の祭典が出来るよ。ニューイヤーロックフェスにも人が流れているし。郷ひろみも内田裕也に申し込んで、お前はまだ早いって言われたんだろう」「時代は変わるってことか」「変わるよ。逆に存続すると、もっと酷いことになる。巨大な利権システムが膨れ上がって、税金を使うみたいな感覚で自由勝手にやりたい放題さ」。
 あれから四〇年が過ぎた。NHKの姿勢は、ますます酷くなっている。テレビ受像機を設置したら、お金を取られる仕組みには、民放も貢献している。民放の番組を見たいからテレビを買う、という人のほうが、多いのではないか。だとしたらNHKは、人のフンドシで相撲を取っているのではないか。受信料を独り占めするのはおかしいだろう。民放も、一部分け前をいただく権利があるのではないか。
 株式会社立花孝志の発売している「NHKをぶっ壊すTV」は、中国のOEM工場で製造・生産されている。チューナーレスのアンドロイドなので、いわゆるテレビではない。これは、たとえばNHK職員にとっても嬉しい話ではないか。つまり、このTVによって、NHKを視聴していない人からはお金を貰わないわけだから。これまで「貰っている」不公平な仕組みについて、正常な神経なら心苦しいはずだ。国民健康保険にしても、会社の健康保険に加入している者は払う必要はない。生活保護世帯もしかり。
 WOWOWの番組を見たくて、テレビを買いWOWOWと一カ月二五〇〇円の契約をする。その人間からもNHKがお金を貰うのは、健康保険料でいうと、二重取りである。会社の社員旅行の積立金を、参加しない者にも、強制的に払わせるような仕組みだ。まともな会社なら、参加する者以外からお金を貰うことはしない。
 サラリーマン物の金字塔『ニッポン無責任時代』の行先は、船橋ヘルスセンター(現ららぽーとTOKYO‐BAY)であった。社員旅行や新婚旅行の定番であった熱海や鬼怒川温泉も、今では廃墟マニアの冒険ランドと化している。社員旅行のある会社などほとんど消えた。チューナーレスTVにより、立花孝志は五年一〇年でNHKはぶっ壊れると言っている。それは分からない。だが、ビル管の場合は、新たなシステムが始まると五年一〇年で変わる。
 その領域にメスを入れるのは、禁断の果実に手を伸ばすことであり、パンドラの匣を開けることにもなりかねない。もしかすると、本当に業界が壊れてしまうかもしれない。それでも私は良いと思っている。新たに始めたら良い。
 ビル管を辞めてエレベーター会社に転職した友人がいる。大手三社(三菱、日立、東芝)のほか、日本オーティス、フジテックなどがある。彼の就職先はZ社だ。日比谷の巨大ビル建設の際、Z社中国から一〇人の技術者が応援でやってきた。しかし、迎え撃つ日本のZ社には、パワハラの所長がいて、社員たちは悩まされていた。一〇人はパワハラに憤慨し、一週間目に中国に帰ると言い出す。その所長は飛ばされた。時代は変わっている。業界は関係ない。共闘しよう。主張しよう。
 報酬は、お金や福利厚生よりも社会的認知と感謝が意味を持つ。職場環境の不公平を減らし、会社への不信感を取り除き、モチベーションを高め、価値観のズレを正す。
 人は同じ歌を歌い続ける。別の業界に入ってリメイクし続ける。早くに創作を止めてしまうのは惜しい。長生きというものも、ある意味ではそのためにある。
 ビルメンテナンスをぶっ壊す!
(建築物管理)







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