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評者◆粥川準二
新型コロナ・パンデミック、第九波の始まりにて――炭鉱のカナリアとしての沖縄
No.3599 ・ 2023年07月15日




■本稿を執筆中の六月三〇日現在、新型コロナウイルス感染症の感染者数が再び増加している。第九波が始まっているのであろう。対策らしい対策がほとんどなされないまま。
 筆者はあいかわらず、各種データサイト(ダッシュボード)をウォッチし続けている。五月九日、新型コロナの感染症法の位置付けが2類相当から5類に変更されたことに伴い、政府は患者の全数把握をやめ、全国約五〇〇〇の医療機関による定点観測しか行わなくなった。それに伴い多くのデータサイトが更新をやめてしまったのだが、NHKの「新型コロナと感染症・医療情報」などいくつかのサイトは、定点観測データをまとめて更新し続けている。
 定点観測が始まってから五回目の週(六月一二日から一八日まで)には、一医療機関あたり五・六〇人の患者が確認された。最初の週(五月八日から一四日まで)では二・六三人だったので、約二・一二倍に増加したことになる。
 六月一六日、厚生労働省の専門家組織である「アドバイザリーボード」の会合が二カ月ぶりに開かれた。新型コロナが5類に移行してから初めての会合であった。定点観測データが倍増していること、学校での集団感染も増えていることなどが報告された。
 あるニュースは、東京のあるクリニックの医師の言葉として、「医療機関での検査を希望しない患者も6割程度いる」と伝えた。五月八日以降、PCR検査の自己負担金が発生したこともあって、検査を受けない人が「相当数いる」、と(無署名「コロナ2倍に 2カ月ぶり専門家会合 陽性率50%超 検査すり抜けも」、テレ朝news、六月一六日)。つまり、一医療機関あたりの感染者数として発表されている数字も氷山の一角である可能性があるということだ。
 筆者が住む広島県でも、感染者数が増加傾向にある。定点観測が始まった最初の週では一医療機関あたりの患者数は二・三一人だったが、六回目の週では四・三六人に増えた。
 筆者は昨年一〇月に四回目のワクチン接種を受けた。五回目の接種券がなかなか届かないので、広島県の担当部署に「東京の知人のなかには六回の摂種を受けた者もいる。僕の五回目はいつになるのか?」と問い合わせてみたところ、筆者の条件では九月以降になるとのことだった。詳しくは広島市に問い合わせてほしいと言われた(接種は県の事業のはずだが)。広島市に問い合わせてみると「私どもは厚労省の指示に基づいています。他の自治体についてはコメントできません」の一点張りで、予想以上の説明はなかった。まるでChatGPTを相手にしているようだった(六月二九日)。
 話を戻そう。患者の増加が最も顕著なのは沖縄である。5類への移行後、最初の週では六・〇七人だったが、六回目の週では二八・七四人に増えている。約四・七三倍に増加したことになる。
 前述したようにこれらの数字は氷山の一角である可能性があるのだが、それ以外の問題も指摘されている。「同じ5類に分類されている季節性インフルエンザでは、流行入りの目安として1医療機関あたり「1・0人」との基準が定められていますが、コロナではまだ目安となる基準は設けられていません」(無署名「新型コロナ「定点把握」による全国の1週間の患者数 前週比約1・1倍に 沖縄では約1・6倍 厚生労働省」、TBS NEWS DIG、六月二三日)。
 一方、六月二六日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長であった尾身茂は、岸田文雄首相と面会し、夏の感染拡大に向けた備えや国内の感染状況について「意見を交わした」(無署名「尾身氏「第9波始まった可能性」 コロナ巡り首相と意見交換」、共同通信、六月二六日)。尾身は記者団に「第9波が始まった可能性がある。日本は高齢化が進んでおり、高齢者をどう守るかが大切だ」と語った。尾身は沖縄の状況について「医療提供体制が他県よりも乏しく、患者が一部の医療機関に集中している」と指摘した。
 「沖縄県、そろそろ医療崩壊します」
 沖縄県立中部病院の感染症専門医・高山義浩は、六月二一日、SNS(フェイスブック)のアカウントにそう投稿した。
 「とりわけ本島中南部の救急現場は、ほぼ災害状態になっています」
 「まるで、3年前の武漢のようです」
 沖縄県のデータでは、前述のように定点観測されている医療機関あたりの患者報告数は六月一二から一八日までの週で二八・七四人。前週の一八・四一人、前々週の一五・八〇人から増加し続けている。全国平均は五・六〇人であることから、同県の感染者数は他の都道府県よりもずっと多いことがわかる。
 入院患者数も増加中で、六月一八日時点で五〇七人。病床使用率は五七・八パーセント。「高山医師によると、過去の経験に基づき入院患者数300~500人で「医療ひっ迫」となり、それを超えると「医療崩壊」になるという」(吉崎洋夫「沖縄でコロナ感染急拡大「医療崩壊する」と悲痛な声 再び自粛生活に戻る必要があるのか?」、AERA dot.、六月二五日)。二〇日時点で沖縄県内の重点医療機関二七カ所のうち、三カ所がすでに一般診療を制限しており、七カ所が救急診療までも制限しているという。
 沖縄は炭鉱のカナリアだ。高山の次の言葉を噛み締めたい。「世間の雰囲気がコロナの清算に入っていて、5類という法的枠組みで行政ができることも確かに限られています。いったん、壮大に崩壊してみるしかないのか」(前述の投稿)
(叡啓大学准教授・社会学・生命倫理)







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