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評者◆林田力
日本とウクライナの関係を解説
日本とウクライナ――二国間関係120年の歩み
ヴィオレッタ・ウドヴィク
No.3597 ・ 2023年07月01日




■ヴィオレッタ・ウドヴィク『日本とウクライナ――二国間関係120年の歩み』(インターブックス、2022年)は日本とウクライナの関係史を解説した書籍。2022年のロシア連邦のウクライナ侵略戦争によってウクライナは注目されるようになったが、本書は侵略以前に執筆していたものである。
 ウクライナは2014年にクリミア半島やドンバスを侵略されており、ロシア連邦の侵略は2022年以前からウクライナの安全保障上の重要課題であった。本書は2022年の侵略戦争を知りたい向きに直接答えるものではないが、ロシア連邦の問題は十分に記述されている。これを読めばウクライナの態度が悪いから戦争が起きたとはならない。侵略戦争の責任はロシアになる。
 ウクライナの歴史を知れば、ウクライナをロシアの周辺国と考えることは誤りである。むしろ、ロシアがウクライナの周辺国である。キエフ・ルーシがルーシの大本であった。ロシアという言葉自体、モスクワ・ツァーリ国が自己正当化のためにルーシの名前を盗んだものとなる。ウクライナ戦争の落としどころとして、ロシア連邦解体が出ることにも十分な理由がある。ウクライナでロシアの国名を廃止し、モスコヴィアに置き換える動きがあることも理由がある。
 日本とウクライナの関わりは過小評価されてきた。横綱の大鵬は白系ロシア人の子と説明されがちであるが、ハルキウ出身のウクライナ人である(18頁)。ハルキウはロシア連邦のウクライナ侵略の激戦地であった。ロシア連邦軍の攻撃で民間人を含む多数の死者が出たが、ウクライナ軍が反攻している。
 関東軍が満州国を建国すると関東軍は満州在住のウクライナ人の自治的な活動を認めた。満州国は日本の侵略と批判されるものであるが、ウクライナ人にとって肯定的に評価される側面も皆無ではなかった。しかし、ここでも日本側のウクライナ過小評価が影を落とす。日本はウクライナ人組織を白系ロシア人組織の下部に組みこもうとした。ウクライナの民族主義を軽視し、ソビエト連邦の抵抗勢力として十把一絡げにしようとした。
 また、「現地で政権を握る日本軍事使節と日本の警察とを比べると、前者の方がウクライナ人に対して協力的だった」(42頁)。ハルビンのウクライナ語新聞は警察の圧力で1937年に出版停止した(43頁)。国際感覚を持たず、支配しか考えない警察の体質を示している。現代でも外国人への偏見を抱いた職務質問や誤認逮捕が警察不祥事として問題になっている。
 皮肉なことに日本軍の支配下でも上海の方がウクライナ人組織は積極的に活動できた。イギリス人などの自治の歴史が長い租界の伝統があったためである(44頁)。ここからするとウクライナ人にとって最も頼りになる友人は英米になるだろう。それはロシア連邦のウクライナ侵略でも証明している。
 ウクライナの抱える問題は北方領土問題を抱える日本とも共通性がある。日本と最も国境の近い隣国がロシア連邦になる。ロシア連邦が帝国主義的な発想に立つならば黒海・地中海に出るためにはウクライナ、太平洋に出るためには日本を抑える必要がある。ウクライナと日本はロシア連邦という同じ危険を抱えていることになる。







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