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評者◆添田馨
改憲という亡霊――亡国に至るを知らざれば即ち亡国⑫
No.3597 ・ 2023年07月01日




■5月に閉幕した「G7広島サミット」の「首脳コミュニケ」には、「我々は、核軍縮に関するG7首脳広島ビジョンと共に、全ての者にとっての安全が損なわれない形で、現実的で、実践的な、責任あるアプローチを採ることによる、核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを表明する」との文言があった。「核兵器のない(without nuclear weapons)」とは謳っているものの、「廃絶(abolition)」の文字はそこにはなかった。白々しいにもほどがあると私が思うのは、ホスト国日本の岸田総理が“核廃絶”をその場で訴えた形跡がみじんもないことだった。この人は、たしか広島が自分の選挙区であることを売りにしていたはずだが、こういう大舞台をわざわざ地元に誘致までしておいてのこの体たらくは、日本の首相として恥ずかしくはないのだろうか。
 最近、大江健三郎「ヒロシマ・ノート」を読む機会があった。そこで改めて私は「原爆」というこのたった一発の核爆弾が、わが国の戦後の在り方のみならず、その後の世界の安全保障体制にもたらした影響の計り知れない大きさを思った。同時に、「原爆」の放射能を浴びた人々が、戦後に生き残りながらもいかに深い傷を心身に背負い続けなければならなかったかを知り、暗澹たる気持ちになった。「核軍縮」とは、核兵器の安全な管理方法を問うミッションであり、その原罪性を問う概念ではない。その惨害が、人間のコントロールしうる範囲を大きく超えているのは明らかであり、その“廃絶”こそが最終の着地点であるべきは、都度確認されなければならない課題ではなかったのか。
 広島平和記念資料館の入場者数が、このところうなぎ登りに増えているという。特に外国からの若い世代の旅行者が多いらしい。実に好ましい傾向だと私は考えるが、今回のサミットでは各国首脳の館内視察はあったものの、その模様は完全に目隠しされていた。いったいこの国はどっちを向いて進んで行こうとしているのだろうか。
(続く)







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