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評者◆添田馨
改憲という亡霊――亡国に至るを知らざれば即ち亡国⑩
No.3590 ・ 2023年05月06日
■『妖怪の孫』という映画(監督内山雄人・2023年)は、暗殺された実在の総理大臣を題材にしたドキュメンタリー作品であり、祖父にあたる人物が「昭和の妖怪」と呼ばれたことからこのタイトルが採られたものと思う。ところで「妖怪の孫」は一体どんな“妖怪”だったのだろうか。
この作品は政治家としての“彼”の軌跡を、生前の数々の実写映像や関係者の証言などによって生々しく描きだすことに成功しており、監督自身はあくまでも事実関係に沿って忠実につくった作品だと断っていたが、“国葬”までしてもらった“彼”がほんとうにそれに値する人物だったのかどうか、現在のわれわれのみならず後世の人がこれを観ても、おのずとその答えを手にできるような十分にクリティカルな内容になっている。 もともと政治の世界はさまざまな“妖怪”たちの跳梁跋扈する世界である。しかしこの映画の主役である“彼”の場合は、それに輪をかけて突出した“妖怪ぶり”が面目躍如の様相を呈しており、その意味ではたしかに歴史に残る存在だと私も認めるところである。そして親分なきあともその子分たちがあの手この手で亡き親分の威光を顕彰しようとやっきだが、恐らく成功しないだろう。“彼”の存在の巨大すぎる空疎さは、そんな子分たちの思惑をはるかに凌駕するものであり、永遠の戯画となるに相応しい十分な風格をさえ感じさせるからである。 「国会の虚無化」――“彼”のもたらした最大の負の遺産は「憲法改正」でも「アベノマスク」でもなく、これだと私は思っている。映画のなかでこの言葉が出てきたとき、私は雷にうたれた気持ちになった。国会という場への信頼や希望をことごとく興ざめにしたあげく、政治をまえむきに語ろうとする気持ちまで萎えさせ、人々をげんなりさせてしまう妖力を“彼”は残していった。“ぬらりひょん”を思わせた祖父に対し、“彼”はさしづめ私たちからことごとく生気を奪いとる“ひだる神”といったところだろうか。 (続く) |
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