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評者◆ 凪一木
その187 官庁の謎
No.3588 ・ 2023年04月22日




■前回書いたように、不要なのに人が増えた。試験運転を行えば済む話なのだ。ちょっとした不具合で増員される。民間会社のビルではありえない。賃金を余計に払うことになるからだ。だが、今私のいるA省で、前年に起きたベルト切れの発見遅れによって寝室新設の上の計四人泊まりとなり、今また一人を増員したのである。この先は推量では書けないが、発注間でのお金の流れに五輪談合みたいなことがなければよいと思っている。その追求は今の目的ではないので書かない。
 警備も守衛もまた、もともと人が大量なのに、さらに大幅に人員が増えた。「令和のクヒオ大佐事件」が起きたゆえである。クヒオはA省にも私の泊まった日に入ったが、その話は事件後に知らされた。車が正門から突っ込んだ日も私の泊まりだったが、同様である。秘密主義というよりも、無関心・無警戒ではないかとすら思える。地下地上とも立体駐車場はなく神戸の校門圧死事件のような横からガラガラと開ける門を、多いときは四~五人の守衛が手で開ける。その横にやはり入館証を見る守衛がいて、小さな扉を開ける。さらに建物に入ると、ここにはすぐ隣に守衛室が多数常駐しているうえに、立哨で四~五人がいる。目の前のICゲートにカードを通し入っていくので、カード不所持の人間が一人で入るなど本来は不可能だ。
 ビルは中高層階建てだが、なんと特高と呼ばれる二万ボルト以上の特別高圧電力を引いている。本来はこのクラスのビルは民間なら六六〇〇ボルトの「高圧受電」で済む。
 特別高圧電力を必要とする施設は、年間電気代金が数億円~数百億円規模の工場や商業施設、オフィスビルである。ここまではどこにも書かれている。だが、特高を受電すると、高圧とどれくらいの電気料金の違いがあるかは曖昧にされている。ビルの仕様により違いがあるのは分かるが、かなり調べても具体的な数字が登場しない。かつて日産の要職に知り合いがいて、日産の某工場での年間電気量使用と料金及び割引システムを聞いてあまりの数字にぶっ飛んだことがある。余談だが、わが師神波史男の兄は日産北米社長であった。詳しいビル管の話では、高圧が五〇万円とすると、特高は一〇〇〇万円レベルだという。東電からケーブル引くのに一億円。たしかに、特別高圧利用の場合、送電線を直接工場や施設に引き込み、変電所から電気を送り、電線を引き込むために鉄塔などの付帯設備が不可欠だ。だがビル管の話はホントかなと思う。
 エネルギー事業の会社スマートブルーの運営するHPには、以下の記述がある。〈平成一六年に環境省より発表された資料によると、延べ床面積七五〇〇〇平方メートル程度の大型病院(医科大学の外来棟)の電気代が一年間で一億円程度となるという事例があります。〉さらに〈二〇二一年六月の全国の特別高圧の平均料金単価は一〇・五四円でしたが、二〇二二年六月には一五・四六円にまで上昇しており、約五〇%もの電気代の高騰が一年間で発生しています。〉とある。日本で現在、〈年間一〇〇億円近くの電気代を利用するケースもある特別高圧が一万件、高圧が七〇万件ほどあります。〉ということだが、少なくともA省のこのビルに特高は不要であろう。
 それだけの設備を要して、電気代をケチることこの上ないのが驚きだ。民間ビルで、こんな暗さではやっていけない。各階の電灯は、廊下など四分の三が消灯状態で、執務室も、三分の一が消灯状態だ。暗くて仕事に支障をきたさないのか、こちらが心配になる。何のためのパフォーマンスか。電気室も節電で消している。当然エネルギー会議を暇なゆえなのか、しょっちゅう開いている。だが、ただの茶飲み話で、いつも同じ省エネ指示が繰り返される。一方で、発電機故障は、リレーではなく、遮断機本体が壊れていたということで、(整備中に停電が起きては対処のしようがないということで)整備などは考えず、新品と交換する。
 省エネのほか国の環境問題にも配慮する。ガスを使用する方が電気よりも二酸化炭素を排出するので、なるべく電気を使う。その電気も、力率調整用のコンデンサ投入は民間なら自動だが、いちいち電気量の切替発生する直前と直後に、毎日手動で入り切りする。ボイラーも付けっ放しの方が効率良いような気もするのだが、毎日入り切りする。霞が関三丁目の地域冷暖房に含まれる特許庁総合庁舎だけは、少々事情が変わる。
 電気ではないが無駄と言えば、大量の紙だ。B省では、某氏の自殺が起きて以来新たに部屋が新設され、巨大なシュレッダーも導入されて連日稼働していたという。A省では誤発注で無駄になった膨大な書類が、地下の中庭にまで野ざらしで置かれていた。約一万四〇〇〇箱。総重量一八七トン。
 これだけザルのような状態で、機密には異常にうるさい。執務室への入り口は厚さ一一センチの二重の鉄扉だ。その間には風除室くらいの空間がある。なのに電気室にはWi‐Fiも光ケーブルもない。日報は、パソコンではなく、ノートに鉛筆で書く。と言っても書くことが一行もない日がかなりある。ビル管理の目指す方向が分からない。こちらが全体を把握する以前に、怒られもしなければ、相手にもされていないような感じでの勤務である。
 ビルでは、エレベーターの隙間に鍵など落とすことはよくある。看護士によるペンと携帯電話のトイレ流し、そして鍵のエレベーター落としは、病院での定番だ。私もかつて、地下三階のさらに下まで、業者に頼むと別途お金が掛かるので、点検の日に停止してもらって取りに降りたことがある。また、脚立で水をバケツで掬ったこともある。はっきり言って恐怖で背筋がぞっとする。かごが落ちてくる確率がほぼないことは分かる。だが、本職ではないから慣性も技術もなく、万が一を考える。二度とやりたくない。
 例えば外務省は、天皇誕生日などの記念日には、各国大使をレセプションホールに呼んでセレモニーをする。その際、外にマイクを付けて放送しなければならない。何十カ国の大使が、それぞれ車で来ているので、ズラリと玄関前を取り囲み、それを捌いて、帰る人間を待たせないよう放送する。そのために、エレベーターを手動にする。本来業者は絶対に鍵を渡さないのだが、ビル管理の人間が鍵を貰って手動の方法を教わり「ビル管が」行うことになるという。落とし物を拾う作業など、民間では業者を呼ぶと別にオプションでお金を取られる。だが、そこは自由に無料で呼びお願いする。官庁と民間の「オフレコ」での違いと言える。
 さて、いよいよ次回は増員での彼の登場と言いたいが、もう一回官庁設備について書く。
(建築物管理)







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