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評者◆殿島三紀
抑えても抑えきれない怒りが迸る――監督 ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ『トリとロキタ』
No.3585 ・ 2023年04月01日




■『丘の上の本屋さん』『ウィニー』『屋根の上のバイオリン弾き物語』を観た。
 『丘の上の本屋さん』はイタリアの最も美しい村のひとつチヴィテッラ・デル・トロントを舞台に、老人と移民の少年が本を通して交流する姿を描いたウォーム・ハートな作品。監督はクラウディオ・ロッシ・マッシミ。石畳や石造りの建物が美しい街の古書店に繰り広げられる少年と老人の友情を感動的に描き出した安心して観られる映画である。
 『ウィニー』。2002年金子勇が開発した革新的なソフト「ウィニー」で映画やゲーム、音楽の違法アップロードが容易になり、社会問題となった。2004年には開発者の金子自身も著作権法違反幇助の容疑で逮捕される。日本ネット史上最大の事件だった。その不当逮捕から無罪を勝ち取り、技術者や研究者、科学技術を守るために闘った人々を描いた作品。実話を基にした映画である。松本優作監督作品。
 『屋根の上のバイオリン弾き物語』。ダニエル・レイム監督作品。ウクライナに生きるユダヤ人一家の日常と苦難を描いた世界的に有名なブロードウェイ・ミュージカルは1971年、ノーマン・ジュイソン監督によって映画化され、またまた世界的に大ヒット。本作はこのミュージカルを映画に再構築したジュイソン監督がその奮闘や裏話を愉快な語り口で伝えるドキュメンタリー映画。本家の映画を観ていなくても楽しめる作品だ。
 さて、今月の新作映画はダルデンヌ兄弟監督の『トリとロキタ』。『ロゼッタ』(99)、『息子のまなざし』(02)、『ある子供』(05)等、これまでの彼らの作品は、この世界が抱える深刻な課題を描きながらも怒りを直接ぶつけてくることはなかった。「こんなことがあるのだけど、どう思う?」と観客の心に深く突き刺さる問題提起はあったが、彼らの視線は優しく、その怒りがスクリーンに激しく表現されることはなかったような気がする。しかし、本作は違った。
 他国から逃れてきた子どもたちを利用することしか考えていない同胞ベルギー人への怒り。同じ肌の色でありながらトリとロキタを収奪する大人たちへの怒り。いつの時代も消えることのない社会悪。子どもたちの残酷な現実に対して監督たちのこらえきれない怒りがとうとう噴出した。
 アフリカから地中海を渡り、ベルギーのリエージュへやってきた13歳のトリと18歳のロキタ。彼らは姉弟のように暮らしているが、実の姉弟ではない。年上のロキタはトリを守り、しっかり者のトリは時々情緒不安定になるロキタを支えている。二人はいつも一緒だ。トリはベナンから、ロキタはカメルーンからベルギーへたどり着く途中で出会った。別々にやってきた彼らが姉弟として暮らしているのは、ビザを持たないロキタが既にビザが発行されたトリの姉と偽り、ビザを取得しようとしていたからだ。ビザさえ手に入れば、ドラッグの運び屋など辞めて、家政婦の職にだってつける。そう、なにも大それた望みなどない。二人の夢は祖国に仕送りし、二人でアパートを借りて暮らすこと。ロキタはなんとしてもビザを入手しようと、トリと離れて危険な仕事を受けてしまう……。
 今回もずぶの素人を起用した監督たちだが、トリを演じたパブロ・シルズはエルサレム映画祭国際映画部門の審査員特別賞を受賞。ロキタ役のジョエリー・ムブンドゥは欧州の若手俳優の登竜門といえるシューティングスターに最年少で選出されている。ぴったりと彼らに向けられたカメラは不安に満ちたロキタの瞳を写し、彼女を守ろうと食い入るようにみつめるトリを追う。観客はカメラとこの若い俳優たちの生々しいまでの格闘を息をつめて見守るしかない。それだけに衝撃のラストには声にならない悲鳴をあげてしまった。第75回カンヌ国際映画祭で75周年記念大賞を受賞。
(フリーライター)







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