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評者◆えびけん
また『源氏物語』や『枕草子』が読みたくなる1冊
古典モノ語り
山本淳子
No.3581 ・ 2023年03月04日




■著者の山本淳子さんは、以前に『源氏物語』や『枕草子』を読むときにその副読本として読ませていただきました。それぞれの作品に一般に広まっている程度のイメージしかない私にとって、そのイメージを変えてくれ、そして豊かにしてくれる方です。
 今回の本は、牛車、築地、橘、犬、 、御帳台、扇、物への書き付けといった平安の古典作品には頻繁に登場する平安時代には日常のものでも、現代の私たちにとっては普通ではない様々な「モノ」についての理解が深まる1冊です。
 牛車については、天皇は輿に乗られるので牛車には乗らないが、退位して上皇になると牛車に乗ることや、その牛車についても、上皇や四位以上の公卿らが使用できるものや、五位以上の貴族らがある意味通勤用に使う牛車があること、またその牛車の走らせ方についても、清少納言の『枕草子』にあるように似合った走らせ方があることなどは、あまり気にせず読み流してしまっていたな~と反省しながら読みました。上流階級の方々が乗る牛車はゆったりと、五位以上の貴族が通勤で乗る場合は逆にゆっくりはだめで、ちゃっちゃと早くというのがいいそうです。さもありなんですね。
 橘について、“源平藤橘”の歴史ある四大姓の一つとして知っていましたが、なぜ橘なのか? それがこの本のおかげで納得できました。それは橘が常緑樹であり、実をつけながら、花も咲き、葉もつき、それが冬の霜が降りる季節でもその状態で困難な状況でもしっかりとしていること、そしてその実も素晴らしいことから「橘」姓が贈られたということで、確かに歴史ある四大姓という位置づけにも納得できました。
 この橘は常緑樹の橘が古来から「右近の橘」などで珍重され、その悠久性と永遠性から、文化の永久性に通じることから現在の文化勲章のデザインにも採用されているとのことで、今でもその特別な存在で、平安から今も続く歴史を感じることができました。
 犬については、現在ではほとんどペット=愛玩動物という点だけですが、平安時代はペットや猟犬としてだけでなく、実は都の汚物処理係という点については今からでは想像できない存在でしたが、確かに犬については古典作品ではかわいがられているだけではない、野犬といった危険な存在として登場しているのは読んでいるので、本当に今とは大きく異なっています。
 他にも様々なモノについて、何気なく読んでいたことから目を開かせてくれます。
 平安の古典作品を「モノ」に着目して読み直してみようかと思わせてくれる知的好奇心くすぐられる1冊です。もう一度平安古典作品を読む前に読んで、古典を更なる視点から楽しむ契機にするのにおススメです。







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