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評者◆粥川準二
新型コロナ、「2類」から「5類」へ――国民も政府と同じく医療逼迫を選んだのか?
No.3579 ・ 2023年02月18日




■本稿を執筆している一月三一日現在、新型コロナウイルス感染症による一日当たりの死亡者数は、一月一三日の五〇三人をピークとして、減少し始めている。
 感染者数は、全数把握をやめた自治体もあるのでもはやあてにならない。そのため第五波や第七波の終わりに本連載でも書いたような「激減」が生じているのかどうかはよくわからない。一方、一人の感染者が平均して何人に感染させるかを示す「実効再生産数」は〇・八八であり、すでに一を切っている。したがって第八波は収束に向かっているのかもしれない。
 そのような状況下の一月二七日、政府が新型コロナの感染症法上の位置付けを、現行の「2類」から、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」へと引き下げる方針を固めたことを各メディアが報じた。時期は五月八日だと伝えられている。
 現在「2類」に位置付けられている新型コロナが「5類」に移行されると、これまで行われてきた行動制限が不可能になる。たとえば、緊急事態宣言、入院勧告・指示、感染者や濃厚接触者の外出自粛要請などができなくなるという。
 新型コロナが2類である現在、患者の入院受け入れや診療をできる医療機関は、感染症指定医療機関や発熱外来など一部だけに限られている。これが5類に移行されれば、より幅広い医療機関が入院受け入れや診療をできるようになる。
 筆者はこれまで、新型コロナが2類から5類になれば、これまで公費負担(無料)だったワクチンや医療費が一部自己負担(有料)になることを懸念してきた。現在でも高いとはいえない接種率はもっと低くなり、症状があっても医療費の負担を心配して受診しない人々が増え、その結果、重症や死亡に至る人が増えるのではないか、と。
 しかしながら、ここ数日の報道によると、政府はワクチンも医療費も、当面は公費負担を続ける方針であるらしい。筆者としては少しほっとしたのだが、いずれ徐々に自己負担が生じるのだろう。そのときには、受診やワクチン接種を控える人が増えるかもしれない。
 懸念はほかにもある。『読売新聞』の社説は、新型コロナが「5類になると、保健所などによる入院調整の仕組みもなくなる」と指摘する。「希望する入院先が逼迫している場合、コロナ患者の受け入れ先は誰が調整するのか。医療機関が見つからずに混乱する事態が生じないよう具体策を検討してほしい」(「コロナ「5類」に 医療体制の準備に万全を期せ」、同紙、一月二八日)。
 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会長の尾身茂は、多くの専門家が5類への移行に賛成しつつも、このウイルスは変化し続けているので対策には慎重さが必要だ、と述べたことを明らかにした。「医療ひっ迫が起きてしまう事態が起きてしまったりした場合は、対応を見直すことは当然必要になると思う」(無署名「5類移行 尾身会長「コロナは変化し続けていて、慎重さが必要」」、NHK NEWS WEB、一月二七日、など)。
 慎重さが必要だという尾身の指摘は真っ当ではあるのだが、筆者としては、その発言に説得力の不十分さを感じる。「医療ひっ迫」は、新型コロナがまだ2類である現在でも起きており、マスメディアは救急医療現場の状況を連日伝えているのだ。
 たとえば、『読売新聞』のある記事はこう書く。
 「都内で昨年受理した119番は現在の集計方法になった2015年以降で初めて100万件を超え、約103万件に達した。救急車の出動数も最多の約87万件に上り、今年も17日時点で4万3652件で前年同期を2492件上回っている」
 「総務省消防庁によると、急患の受け入れを病院に3回以上断られるなどした「搬送困難事案」は、全国の主な52消防本部で今月15日までの1週間に8161件に上り、過去最多を4週連続で更新した」
 「都内では昨年、救急隊の1日あたりの平均活動時間が15時間半に上り、前年より約4時間増えた」
 この記事は、ある消防幹部が「市民がコロナ禍に慣れ、病院や救急の業務逼迫を避けようという意識が薄れているのではないか」と話すのを伝えている(大井雅之・石沢達洋「コロナ第8波、119番鳴りやまず…現場疲弊「市民の意識が薄れているのでは」」、同紙、一月二〇日)。
 尾身が、医療逼迫が起きたら「対応を見直すことは当然必要」と述べているのは、たとえ新型コロナが5類になっても、ときには緩い対策を厳しい対策に「見直す」ことが必要だ、という意味であろう。しかし新型コロナがまだ2類で、厳しい対策が可能なはずの現在でも、それは行われず、医療逼迫が起きているのである。政府と国民が緩い対策を選んだからだ。これが5類になったら、政府も国民も、たとえば緊急事態宣言など厳しい対策に再び耐えることなどできるのだろうか。
 実際、新聞社などの調査によれば、5類への引き下げ方針を受けて、岸田内閣への支持率はわずかながらも上がったのだ(無署名「内閣支持4ポイント上昇39% コロナ5類移行、賛成64%」、日本経済新聞、一月二九日)。国民も政府と同じく経済を、そして医療逼迫――それによる落命の発生――を選んだのだ、と理解していいのだろうか。
(叡啓大学准教授・社会学・生命倫理)







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