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評者◆添田馨
改憲という亡霊――亡国に至るを知らざれば即ち亡国⑦
No.3577 ・ 2023年02月04日
■以前、改憲派が主催する集会を覗きにいったことがある。メインテーマは改憲をどうやって進めるかという戦術に関するもので、その第一段階として自衛隊の憲法への明記がいかに重要であるかが力説されていた。その理由は、とにかく一文字でも憲法条文を変更することがいまは最重要なのであり、そこを蟻の一穴とすることでさらなる改正論議の突破口へとつなげられるからだった。「加憲」ということの本当の狙いがここにあると、私はその時はじめて知った。
2018年3月に、自民党は憲法第9条の改正案として、現行条文をいっさい変えないまま、そこへ“自衛権の行使”と“自衛隊の保持”という条項を書き加える案(自衛隊明記案)を公表した。当時の安倍首相はそのことによって「自衛隊の実態は何も変わらない」とか「将来的に軍事的な影響力が拡大する懸念はない」と国民に説明していた。だが、「実態」は変わらなくても「解釈」が変わるのだ。憲法に明記されれば、自衛隊を憲法違反だとする論争に終止符を打つことができる――これはそのような含みをもたせた説明だったが、じつはその裏側には上述のような段階的改憲論がおそらく周到に隠されていたのだと思う。 だが、戦力の不保持と国の交戦権の否定をうたう第9条は、わが国の自衛権やその軍事的担い手たる自衛隊を否定するための条文ではない。たんに国家は「自衛以外の理由のために戦争を開始するいかなる権利も有するものではない」(ロールズ)という統治原理を、それは言っているのである。「改憲派vs.護憲派」という対抗図式に私たちはすっかり慣れ親しんでしまったが、前者とくに第9条の改正に異常な情熱をしめす人々は、国の安全保障の問題を軍事力(攻撃力)の問題に矮小化する傾向がある。だから第9条は平和条項というよりも“非戦条項”と呼ぶのが相応しい。なぜなら「平和」とは状態のことだが「非戦」とはもっと広い領域にまたがる包括的な運動をさすからである。 (続く) |
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