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評者◆凪一木
その167 元請けの女性社員を守れ
No.3568 ・ 2022年11月26日




■イギリスで三人目の女性首相誕生のニュースが流れた九月六日、日本では、自衛隊での女性隊員へのセクハラと、名古屋市議会での女性議員へのセクハラが話題だった。九月八日に、国会閉会中審査で、安倍元首相の国葬説明が行われ、同じ日の名古屋では、タクシー内女性暴行男の公判が行われる。「酒に酔っていて覚えていない」とナンパ男は証言。翌九日、英国女王の訃報が流れてくる。この日は、東京医科大が入試の採点で女性を不利に扱ったとして、東京地裁では賠償を命じた。そして俳優香川照之の性加害報道、現役最多安打のプロ野球選手坂本勇人の女性トラブル。
 浮き彫りになっているのは、そして問われているのは、明らかに日本的な「男尊女卑」であり、日本人独特の「立場暴力」である。そしてそれを許す者たちである。岸田政権を生み出した選挙民と似ているかもしれない。
 私の会社にも女性の職員がいる。ただし、ほとんどが社員ではなく、パートやアルバイトで、しかも設備はすべて男性、警備に若干名の女性、清掃がほぼ女性という割合だ。同等とは言えない仕組みが初めから存在している。いや、清掃女性の過酷さ、悲惨さは、私の親世代がほとんどを占めていて、毎日見るのがつらい。仕組みも、会社も、所属する人間の思考自体も変えなければ、この国は終わると本気で思う。重たい机や機器を汗だくで運ぶのが、腰の曲がった年配女性で、それは表から見えない場所や時間に行われ、しかも金額も安い。介護もそうだろう。街を歩いてホームレスを目にしても無視するように、海外の悲惨なニュースを飛ばし読みするように、ビルの中や工事現場で、駅のトイレで、彼女たちを見かけても、目に入らない。いや、目に留めない。叫び出したくなる。
 私はある時期から、街に出るのが嫌になった。彼女たちの姿が、存在が、残像が、以前よりもずっと大きく、輝き、視線は私へと向かっている。そして綺麗事や言い訳を頭の中で用意して、見ないように過ごす。男たちだって、下っ端はひどい扱いを受けている。残酷だ。今の私は少なくとも以前よりは余裕がある。
 設備に女性はいないのかというと、大手の系列ビルメン会社にはいる。一〇年ぐらい前から積極的に採用し始めた。わがT工業がお得意とされている元請けのSビルサービスもその一つだ。大手ゼネコンの系列ビルメンテナンス会社で、建築系ゆえに、表向き女性に優しく、その内実は、お飾り程度で、本気で活用する気があるのかは疑わしい。二人の四大卒の女性新入社員が、私のいたビルに研修期間として在籍していた。海外留学経験もあり、有能で期待できるコミュニケーション能力絶大と見られた女性は、その後サッサと辞めた。一方で、動きの鈍い、仕事も遅い女性の方は、今も他の現場で残っている。さも有りなんと思った。重要な仕事をさせる気がない。
 さて、あのパワハラ・モラハラ・セクハラ三拍子そろった「中卒」が売りの八時半の男である。かつて清掃さんにセクハラし、チーフ女性には「熟女も良いな」と身体に触り、パソコンからは、エロサイトの記録とエロデータがバレて、SM仲間とみられる男からのエロ葉書は届き続け、一度は警告を受けている。だが処分はされていない。私は、異動してきた女性Aさんへのセクハラを何度も目撃している。
 Aさんは、「有能な方」のタイプである。しかし女性ゆえに、このゼネコン子会社では、「要らない」存在だ。Aさんは、この世界で絶大資格の電験三種という、責任者の「通行手形」を持っている。地価で常に日本一と発表される銀座の一等地のビルでも勤務していた。品川区の高層ハイテクビルにも勤務していた。そして日本橋のやはり一流金融ビルにやってきた。東京ドームや甲子園球場の最も目立つ位置の一つに看板を掲げる会社である。だが、彼女はいつも二番手なのだ。責任者にされない。おそらく女性だからだ。今回のビルでも、電験三種はもちろん、ビル管(建築物環境衛生管理技術者)も持っていない責任者Bの下である。Bは人柄は良いが、私から見ても遊び人で、キューピー人形風の髪型のセットに余念がなく、オヤジ独特の男性化粧品を振りまいて、就業時間を守らず帰る男だ。Bがセクハラをすることはないが、現場を飛ばされた例の八時半の男が暇つぶしにやってくる。そのセクハラを止められないのだ。
 Aさんは、品川でも怒鳴られ当たられ、散々な目に遭っている。そのパワハラをする男Cを私は知っている。というのも、元はT工業にいた人間で、引き抜きでその現場に居ついたまま元請けであるSビルサービスにそのまま残って責任者となった男なのだ。Cと私は、T工業の飲み会でもSビルの飲み会でも会っている。この世界にありがちなパワハラ型のバカである。ミニ八時半の男であり、AさんはCが嫌で異動願を出してやってきたのが日本橋だ。ミニ八時半の男から逃れて、今度は本物がそこに待ち受けていたのだ。
 八時半のやり口は、たとえばこうだ。Aと二人のみ休日に出勤する。業者の立ち合いという名目だが、それまでは下請けの我々に平気で任せていた。誰でもできる仕事だ。そのどうでも良い仕事に出勤させて、仕事する業者の近くに「立ち合い」と称して二人きりになり、雑談からプライベートを誘うのである。Aさんは三〇代の独身女性だ。所属する共同体にもよるだろうが、男ばかりの職場では、掃き溜めに鶴で、注目される程度の魅力はある。異動してきた最初から、地下の受変電室、UPS室、スプリンクラー室ほか、それぞれの狭い部屋に籠って説明や指導と称する「見たハラ」をする。八時半は、スケスケのシースルーYシャツを着ているのだが、それがストライブで、乳首が浮き出ている。我々も目のやり場に困り視線を逸らすと、こちらに向かってウインクしてくる。さすがに私にはウインクしないが、エロ話になると、我を忘れて盛り上がる。前の離婚した妻の子はさらに娘を産んでいる。乳首なんか曝して孫が泣くよ。
 元カメラマンのフェラーリは、「我々がAさんを守ってやらねば」というのだが、「我々」と複数人にするところがフェラーリらしい。自分が先頭を切って「守る」わけではない。私に何かアクションを起こさせようとするだけだ。
 女性も働き始めた設備の現場は、セクハラの温床とも言える環境がある。泊まりの有無の問題、泊まる場所の問題、着替え場所の問題、シャワー室の問題、様々な点で解決途上である。始まったばかりとも言える。
 責任者に、何とか八時半のセクハラを止めることはできないのかメールした。その答えはこうだ。
 「唯一の憩いの場なので来るでしょ」。
(建築物管理)







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