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評者◆粥川準二
コロナウイルス感染者の再増加にさいして考えたこと――日本の「ワクチン疲れ」が気になって仕方がない
No.3566 ・ 2022年11月12日




■一〇月二五日、広島市内の医療機関で、新型コロナウィルス感染症のワクチン接種を受けた。四回目の接種である。これまでファイザー、ファイザー、モデルナという順番で摂種を受けてきたが、今回はファイザーのオミクロン株BA・5対応のものだった。筆者は、これまでも副反応をわずかしか経験してないのだが、今回も接種部位の痛みが数日続いたぐらいで済んだ。
 予約の電話をしたのは、その前日だった。つまり電話した日の翌日の接種をあっさりと予約できたのである。しかも接種会場はガラガラであった。嫌な予感がした。
 東洋経済ONLINEの特設ページ「新型コロナウイルス国内感染の状況」など各種データサイトによれば、本稿を執筆している一〇月三〇日の時点で、全国でも東京でも、筆者の住む広島でも、新規感染者数(陽性者数)がわずかに増えている。微増中、といったところか。今のところ、「激増」という印象はない。
 しかし筆者は、いわゆる第七派が始まりかけていたことろ、日本ではアメリカやヨーロッパほどの感染者激増は起こらないだろう、と予測して、その予測がハズレてしまったことがある(「再びコロナウイルス感染者の激減にさいして考えたこと」、本紙、一〇月一五日)。したがって、今回は口を慎む。
 一方で、諸外国の状況もやはり気になる。
 英紙『フィナンシャルタイムズ』のデータサイト「コロナウイルスを追う(Coronavirus tracked)」によれば、一〇月二七日の時点で、日本の人口一〇万人あたりの新規感染者数は二八・九人。この数字は、EU(ヨーロッパ連合)の六〇・四人(一〇月一四日)に比べればずっと少ないが、アメリカの一〇・一人(一〇月二六日)に比べると多い。ただし、「死亡」を見てみると、日本は人口一〇万人あたり〇・〇五人であり、EUやアメリカの半分ぐらいである。つまり日本では、感染者はじわりじわりと増えつつあるのだが、死者は比較的低く抑えられている(もっとも、各国とも感染者数の計測方法を簡略化しつつあり、この比較にどれほどの意味があるかは不明である。実際、イギリスのデータは五月二〇日以来更新されていない)。
 では、ワクチンの接種率はどうなのだろうか。
 時事通信のニューヨークからの記事は、アメリカではオミクロン株に対応したワクチン接種の「出足が低調」だと伝えている。「米国はワクチン接種自体が他の先進国に比べ低調で、国民の「ワクチン疲れ」が色濃い」(無署名「改良ワクチン、米で出足低調 開始1カ月、認知度に難も‐新型コロナ」、時事通信、一〇月九日)。
 筆者はこの記事の「ワクチン疲れ」という言葉を、広島のワクチン接種会場で思い出していた。
 デジタル庁の「全国のワクチン接種状況」によると、一〇月二八日の時点で、四回目のワクチン接種率は全人口の三一・五四パーセント。気になるのは、その推移である。「ワクチン接種率の日次推移」というグラフによれば、一回目から三回目までの接種率の増加はそれなりに早かった。しかし、四回目の接種率を示すグラフの線の角度は、これまでの三回に比べると低い。つまり接種率の増え方が遅いのだ。ちなみに一回目と二回目の接種率は約七七パーセント、三回目は約六六パーセントで、横ばい状態が続いている。
 日本でも「ワクチン疲れ」が始まっているように見えるのだが……。『フィナンシャルタイムズ』には、各国のワクチン接種状況を比較できるページ「新型コロナワクチンを追う(Covid‐19 vaccine tracker)」もある。それによれば、一〇月二八日時点で日本の接種率は、一回目も二回目もブースター(三回目)も、そして「合計接種回数(total dose)」も、アメリカやイギリス、EUなどを上回っている。
 住民一〇〇人あたりの「合計接種回数」は、キューバが世界一(三七三・四回)であり、チリ(三二六・九回)、ブルネイ(二九二・二回)などが続き、日本は第九位(二六二・三回)である。OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかでは、チリに次ぐ第二位であり、G7、G20のなかでは第一位である。
 つまり日本でも「ワクチン疲れ」は始まっているとしても、ほかのいわゆる先進諸国よりは、いくらかましである。筆者は日本の「ワクチン疲れ」が気になって仕方がないのだが、それは筆者が「コロナ報道ウォッチ疲れ」をしているからかもしれない。
 実際、気がかりなことはいくらでもある。
 たとえば、アメリカの研究者らは、ファイザーやモデルナが開発したオミクロン株対応のワクチンは、従来型のワクチンと比べてそれほど大きな効果がないかもしれない可能性を示唆する研究結果を発表した。「今回の結果はファイザーと独ビオンテックが13日発表したプレスリリースで、臨床試験での「ポジティブな初期のデータ」は新型ワクチンが「より良い防御を提供すると予想される」とした見解とは対照的」である、と(Robert Langreth「オミクロン株対応ワクチン、従来型を上回る効果見られず‐調査」、Bloomberg、一〇月二六日)。
 また、コロナ後遺症、いわゆるロング・コビッドの治療薬の研究がやっと始まったという(無署名「ファイザーの「パクスロビド」、米政府のコロナ後遺症研究に採用」、ロイター、一〇月二八日、など)。筆者の知人でロング・コビッドを患っている者がいるので、この動向も気になる。
 筆者の「コロナ報道ウォッチ疲れ」はしばらく続きそうである。
(叡啓大学准教授・社会学・生命倫理)







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