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評者◆越田秀男
関屋邦広が従軍戦闘下で執筆した作品に込めたもの(「龍舌蘭」)――アイヌ詩文、新たな潮流(「海峡派」)/金城哲夫を追慕し沖縄へ(「青磁」)
No.3566 ・ 2022年11月12日




■「龍舌蘭」の岡林稔さんは、関屋邦広が従軍戦闘下で執筆した三作品を論述(『「龍舌蘭」の旧作〈昭和十六~七年〉を読む⑥』龍舌蘭二〇六号)。戦争体験を戦後約30年の沈黙を経て上梓した『太行山脈』。そのモトとなった『春愁』『王香君』『風の吹く日』。戦場は遠景に退き、夢に現れる祖母、異国の風物、支那服の女……。特に『風の吹く日』では、ソ連軍の戦車が迫る中、末尾に小景が現れる――「風が二人の後を追つた。土手のスズメノアワの穂先も空しくゆれてゐる」。岡林さんは、これらの表現には《反戦の思想》が込められているという。だが『風の吹く日』はなぜか『太行山脈』に組み込まれていない。
 アイヌ詩文、一九九〇年以降の潮流――『日本語で書かれたアイヌ民族の詩文Ⅴ』(古賀博文/海峡派一一五号)。これまでの、迫害や差別といった観点を脱し、《祖先から受け継いできた〈自然とともに生きる〉という思潮に誇りと確信を持って》現代文明に問いかける詩文を紡ぎだすに到った。宇梶静江の詩『大地よ――東日本大震災に寄せて』《大地よ/重たかったか/痛かったか//あなたについて/もっと深く気づいて/敬って//その重さや痛みを知る術を持つべきであった……》。ア イの歌詞『カント コロ カムイ(天の神)』《……光と風の波に揺られ揺られ/縄文人は、ついに死の恐怖と悲しみをのり越える……》――彼は、縄文人イコールアイヌ民族だと言う。
 第一期ウルトラシリーズを企画した人――『ぐぶりーさびら』(松江農/青磁44号)。沖縄へと、〈私〉を誘ったのは心の中に棲む金城哲夫だった。海洋博の面影を求めての旅、アクアポリス? 跡地に模した大型遊具が。よじ登ると《海が視界一杯に広がった》。金城はTVドラマでヒット作を連発するも、突然沖縄に帰郷、沖縄芝居に没頭……不幸は沖縄海洋博で開会式・閉会式の演出担当を受けたことから始まる。本土との狭間で肝腎のウチナンチュの冷ややかな態度。泥酔して転落死。沖縄返還核密約の密使、若宮敬の自死と重なる。ではまたね、ぐぶりーさびら。
 桑田佳祐の稲村ジェーン挿入歌?――『希望の轍』(小松原蘭/季刊遠近80号)。時はソウルオリンピック。〈私〉は父の仕事の関係で韓国の外国人学校に編入。言葉の壁。歌ってやり過ごそうとコーラス部へ。すると日本人女生徒と三人組に。だが”日本人”という壁。〈テス先生〉の透明な指導でカベ解消。ラジオ局主催の外国人学校生徒たちによる音楽祭が。自国の歌を披露! 皆舞い上がった。収録を終え、いよいよラジオ放送! 三人組の日本の歌だけがキレイにカットされていた。先生は退職。上層部との対決の末であった。30年後、三人組の一人が同校の音楽教師となり、「音楽祭聴きにこない?」韓国へ。日本人生徒は今年『希望の轍』を選曲。テス先生の轍から学ぶべし。決して韓国ツアーや統一教会の轍を踏むな。
 季刊詩誌「舟」では韓国の詩(李国明・訳、韓成禮・監修)を紹介しており、188号で45回。方珉昊(ハン ミンホ)の『隠れた壁』――北漢山には《外から見えない隠れた壁があるというので晩秋の山の中に》入った。確かに《山峰と渓谷に囲まれた》壁があった。季節が遷り春を迎えるとその壁が〈私〉の心の中に入り、〈私〉を遮る――そんな過去が。しかし今、山奥のその壁は《隠れてはいないので》尋ねれば《人々の目を喜ばせるでしょう》。
 「北斗」10月号では、棚橋鏡代さんの小説集「うげ」、星川ルリさんの小説集「私の影を踏まないで」の上梓を記念して特集を組んだ。このなかで、ゲンヒロさんは棚橋さんの作品を”煩悩”という視点から捉え――《普通の人間》《普通の煩悩》《煩悩が当たり前の「在りのまま」の世界》を《童心の目》で描いた、と論評。小説集の表題作『うげ』は、おんぼうの〈利市〉を狂言回しに、片田舎の風景を背にして、祖母、父、母の生と死を「在りのまま」に描写し、昭和という時代をモノトーンで野辺送りにした。
 飛んで令和の煩悩へ――『牛の形の島で』(武田久子/SCRAMBLE43号)。父・母を看取り、離婚し身一つの〈私〉はポッカリ空いた虚を埋めに島へ。畑であれこれ育て収穫へ……猪が夜襲、根こそぎかっさらい。もはやこれまで。と、コロナ禍で暇を持て余す村の爺たちが結集して要塞を築く。やめるわけにもいかなくなった。すると、元カレが島に。彼は妻との折り合いを大切にし夫婦生活を堅持、と思っていたのに、妻はコロナ禍を境にワクチン接種反対教の教祖と化し、周りは大迷惑とか。ところで島は自由律俳句の尾崎放哉、終焉の地《咳をしても一人》。自由な個は孤。
 爺と婆が同棲、いや“共棲”――『時の回廊』(南奈乃/てくる31号)。還暦、母と二人暮らしの〈私〉。同窓会通知、離婚後初参加、外で呑みたかった。会話を避け隅の方で、すると年齢相応に頭頂部の薄い小男〈木村〉。以後飲み友達に。春、母と三人で花見。夏、猛暑、母が自宅で倒れる、熱中症? いや結核! 入院、助っ人木村、大いに助かる。すると木村から「同居しよう」「冗談はよしこさん! 息子に何言われるか」「世間体と孤独死とどっちが怖いねん」。”共棲”が始まった。
 世にも奇妙な物語――『サイレント』(小路望海/R&W32号)。中規模IT会社――課長と部下に挟まれいじめを受けるプロマネ。〈私〉は身をかわすことに腐心。と、母から従兄がビルから転落との知らせ。一命は取り留めるも、無残な状態。加重労働、パワハラ……意識回復、「電話してあげたら」と母、出来るわけないでしょ! 向こうから連絡が、しどろもどろ。会社ではプロマネの自殺しかねない顔。ウゥ~ン、虫垂炎↓腹膜炎! 3週間入院。大反省、逃げるな! 勇んで出勤、エッ? 人事刷新、課長交代、プロマネテキパキ、若手もシャキシャキ。従兄に電話、明るい声。グチ女の友も新たな彼氏。皆あっち向いてホイ。ここはどこ? 私はだぁれ?
(風の森同人)







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