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評者◆凪一木
その163 新型コロナは「二類」なのか「五類」なのか
No.3564 ・ 2022年10月29日




■去年の夏(二〇二一年七~九月期)のドラマは、「緊急事態宣言」の影響か、以下の緊急タイトルがひしめいていた。「TOKYO MER~走る緊急救命室~」(TBS系/黒岩勉)、「ボイスⅡ・110緊急指令室」(日本テレビ系/浜田秀哉)、「緊急取調室 第4シリーズ」(テレビ朝日/井上由美子)。ドラマばかりではなく、実際の飲食宿泊関係を中心としての制限により、緊急事態ムードが浸透していた。
 二〇一九年の新型コロナ感染により、世間はもちろん、ドラマもコロナ一色での動きである。その中で、専門家を交えて、素人も含めて問題視されたのが、感染症分類だ。二〇二〇年四月頃から、以下の文章が様々に出回っていた。
 〈日本には約一六〇万床の病床があり、人口あたりではダントツ世界一の数字だという。ところが新型コロナ感染対策病棟として使用された病床は、全国で三万一〇〇〇床で、これは国内全病床の一・九%に過ぎず、その理由が指定感染症二類相当にしたままであったからだ。〉という。
 実際には、日本には他国に比べ精神科病床の割合が多く、常に満床状態にしたい病院側の事情もあって、適正量以上の「消費」が既にされていて使用できなかったと言われている。とはいえ、「二類」もまた一つの壁として立ちふさがっていたようだ。
 この対策が良かったのかどうかは、のちにしっかりと検証する必要がある。新型コロナの分類が、感染症類型の二類か五類かについて有耶無耶なまま方針がはっきりせずとも、結果オーライであっては、安倍元首相の死で「モリ・カケ・サクラ」さらには統一教会問題までがなかったかのようにされるに等しい。安倍元首相死去かつ参議院選挙で自民党圧勝の現在、今なお二類のままである。
 新型コロナが、現在は制限の厳しい二類感染症に分類されているが、これを制限のゆるい五類に変更しろ、という事情はいったいどういうことなのか。日本ではコロナが未だ二類相当になっているため、保健所が入院調整し、陽性者は原則二週間入院隔離。
病床数が足りないからホテルなどでの隔離。それでも足りなければ自宅待機。早く五類相当に変更して制限を緩めることで、保健所ではなく開業医がインフルエンザ同様に初期対応をすれば、重症化を防げるはずだという理屈だ。だが、そんなに簡単に変えられるのだろうか。実は、法改正される度に変わっている。
 たとえば鳥インフルエンザは、初めは一から五類感染症までにも入らない「指定感染症」だった。その分類から、H5N1とH7N9は二類、それ以外は四類に、法改正により引き上げられた。また、現在「三類感染症」と分類されている感染症は五種で、パラチフス以外はいずれも元は三類ではなかった。腸チフスは四類、コレラが指定感染症、細菌性赤痢が二類、O157等の腸管出血性大腸菌感染症は一類である。
 なぜ私が詳しいのかというと、これは、ビル管の試験に出るからである。定番である。したがって、一類から五類までの重要感染症の全てを覚える。たいていは語呂合わせで覚える。看護師の試験にもでるので、ビル管受験者と同じように受験者は覚える。たとえば三類なら、「パチンコで腸赤」といった風に。一類の七つは、「えらくまともなペット」と覚える。エボラ出血熱、ラッサ熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルク病、痘瘡、(も)、南米出血熱、ペストの七種類である。
 問題としては、以下のように出題される。
 〈感染症の予防及び(中略)感染症の類型において三類感染症に分類されるものは次のうちどれか〉
 (選択肢)1=マラリア、2=コレラ、3=日本脳炎、4=狂犬病、5=デング熱(平成30年)
 答は二番のコレラである。
 とはいえ、感染症法に基づく類型分類の問題は過去一〇年で二回だけである。全一八〇問のうちの一問が五年に一回となると、この労力は無駄ではないかと思うかもしれない。しかし確実に得点できる点において、「覚えない」という選択肢は、多くの受験生にとってないと言える。捨てるわけにいかないのは、覚えてさえいれば「右から左」で、必ず得点できる暗記物だからである。
 各試験によって、それぞれ覚え方が違うのは、看護師は、看護師なりの、ビル管は、ビル管なりの「見合った」覚え方があるからだ。重要度の違い。また、次々と改正されるので、古い参考書で覚えると、不正解となる。語呂合わせも改正されていく。
 私も試験前は、全て覚えていた。四類で四四疾患、五類で四六疾患ある。
 日本での感染症に関する法律は、明治時代の一八九七年の伝染病予防法が始まりである。一〇〇年以上経って、大正、昭和年間をすっ飛ばしての平成となり、一九九九年にいわゆる感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)が実施される。このときは、一から四類感染症と指定感染症、新感染症の六分類であった。
 これが二〇一四年の改正では、一から五類までのほか、指定感染症、新感染症、新型インフルエンザ等感染症の八分類となった。
 さらに二〇二一年二月に、いわゆる改正法(新型インフルエンザ等対策特別法等の一部を改正する法律)が公布施行されて、新型コロナは二類に分類されたわけである。
 二〇二一年八月一〇日、フジテレビ系の情報番組「バイキングMORE」で、新型コロナウイルスによる医療逼迫を防ぐため、専門家がリモート出演した。長尾クリニック院長の長尾和弘医師が、感染症法上の分類を二類から五類に引き下げるよう訴えた。SNSでは賛同の発言があふれ、「バイキング」がトレンドワード入りする。
 五類引き下げにより、「開業医による早期診断・即治療が可能」「すぐに入院が必要な人は開業医が直接依頼」「濃厚接触者の健康観察、入院先の割り振りが不要になり保健所崩壊が解消」と三つのメリットを挙げる。「五類にすれば全て氷解する。僕の言っていることが間違っていたら、僕は責任取って医者辞めますよ。五類落としが大前提。今やるべきだと思います」と長尾医師。
 だが岸田総理は。二〇二二年二月一七日の記者会見で「五類」への引き下げを否定する。しかしこれも変わる。〈岸田首相が方針転換。コロナを「二類相当↓五類」指定へ〉(四月九日「DIAMOND ONLINE」小倉健一)。その気運の高まる選挙戦の中での安倍氏殺害強行であった。
 六月末から全国の感染者は急増し「第七波」が目の前だ。〈「今回の脅威は相当危険」と見る中央省庁の官僚は少なくない。〉(七月九日「DIAMOND ONLINE」小倉健一)
 〈都の専門家は警戒レベルを最も高いレベルに引き上げるとともに「感染拡大のスピードが急激に加速している。(中略)これまでに経験したことのない爆発的な感染状況になる」と述べ、強い危機感を示しました。〉(「NHKウエブ」7/14)
 なぜ未だに「二類」としているのか。私には分からない。
(建築物管理)







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