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評者◆秋竜山
手塚治虫さんとの初対面の話、の巻
No.3559 ・ 2022年09月17日




■子供の頃は、もっぱらマンガの手塚治虫の作品ばかりであった。小説本など読んだことがない。だから、直木賞も芥川賞などもまったくしらなかったし、もちろん読むわけもない。毎日、発売日がたのしみで、まちがって書店へ出かけていって、書店の人に、「今日は発売日ではありませんよ」と、いわれて、ガッカリして帰ったことを思い出す。それでも、もしかする。すごすご肩をおとして家へ帰ると、母に、「それでも、もう一度、行ってみたらどうなの」と、いわれ、本の代金をもらって、出かけた。書店の人に、笑って、「さっき買いに来たばかりではないかね」と、いわれ、「そーだったね」と、いって、またしてもすごすご家へ帰ったのであった。そのことを母に話すと、「もしかすると、売っているかもしれないから行って見るといいよ」と、いわれ、またしても走って書店へかけつけた。書店の人は笑って、「何回きても、明日発売日だから、あしたきてごらんなさい」と、いって大笑いされた。子供の私は、「そんなこといっても売っていると思ったから、きたんだ。笑うことはないだろう」と、怒って帰ったことを思い出す。子供時代のマンガ好きのバカバカしい話である。
 河野通和『「考える人」は本を読む』(角川新書、本体八〇〇円)では、
 〈「編集者どうしの、ぼくをめぐっての喧嘩などザラで、みんな手塚担当と聞くと、女房子供と水盃をして来るという噂が飛ぶくらい悪評が高かった」。この文章が書かれたのは1960年(手塚さん40歳)頃のようですが、記者への詫び状ざんげ録というよりは、どことなく郷愁を帯びた懐旧談になっているところが、手塚治虫たる所以でしょう。現に、文章は次のように結ばれます。「二十年前の編集者は、どちらかというと飄逸たる文士風の人間が多く、それだけに個性も強くて、打てば響くような風格があった。その後、出版労組も確立し、出版社のカラーも画一化され、記者もサラリーマン化して、紳士だが、個性に乏しい人材が多くなったように感じるが、どんなものだろう。作家は編集者によって瑠璃にも玉にもなるのであるから、それには強い個性の衝突がなければならないと思う。なにもそれは締め切りで喧嘩しろというのではないが――。締切をはさんだ手塚さんと編集者の鬼気迫る制作現場のありさまは、『ブラック・ジャック創作秘話~手塚治虫の仕事から~』(宮崎克原作、吉本浩二漫画、全5巻、秋田書店)を読むにしくはありません。子ども時代、毎日楽しみにしていた手塚作品が、どんな人たちの汗と涙と執念の結晶として届けられていたものだったか。雷に打たれたような驚き、感動しながら読んだものです。その中に、『編集の人から野放しにされたら、半分の作品も生まれなかったはず』という手塚さんの言葉も、たしかありました。」〉(本書より)
 そういえば私が少年の頃(十四、五才)に集英社へ漫画のカットなどを持ち込み見ていただいた。私は編集者の机のわきに座って批評を待っていた。その時、手塚治虫さんが編集室へやって来て、私の座っているのを見て、「あの少年は誰か」と、きいたという。私はビックリして椅子からころがり落ちるほどの大感げきしたのであった。なんとも、なつかしい子供時代の手塚治虫さんとの初対面であったことか……。







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