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評者◆粥川準二
新型コロナウイルス感染症、再び感染者増加――マスク着用は「同調圧力」なのか?
No.3551 ・ 2022年07月16日




■六月二九日現在、再び新型コロナウイルス感染症の感染者(検査陽性者)が増え始めている。東洋経済ONLINEの特設ページ「新型コロナウイルス国内感染の状況」など各種データサイトによれば、全国でも東京でも一日あたりの新規感染者数が上昇に転じている。たとえば東京では、六月二二日時点の新規感染者数は、一週間平均で一日あたり一六九八人であった。これは前の週の一〇パーセント増であった。また、五週間ぶりの増加であったという(無署名、「東京都の新型コロナ患者が5週間ぶりに増加。「BA.5」など亜系統が増加」、シニアガイド、六月二四日、など)。
 幸いなことに、筆者の住む広島ではそれほどではない。しかし時間の問題かもしれない。重傷者や死亡者が少ないのは不幸中の幸いだが、分母が大きくなれば分子も大きくなるはずなので、油断はできないであろう。
 そのような状況下で、筆者の知人たちのなかには、そろそろ海外出張を再開し始めた者たちもいる。SNSへの彼らの投稿を見る限り、ヨーロッパには、国民がもはやマスクをほとんどしていない国もあるようだ。
 時事通信は、ヨーロッパで新型コロナウイルスが再び拡大しつつあることを伝えている(無署名「欧州でコロナ再び増加 バカンス前に警戒強化」、六月二七日)。感染力が強いオミクロン株のなかでも、「BA.4」や「BA.5」と呼ばれる亜系統が蔓延しているという。いまのところ、重症化リスクが高まったという兆候はないようだ。
 ただ気になるのは、「ワクチン接種済みと未接種の人の陽性率はほぼ変わらない」ということだ。「感染症専門家は感染拡大の原因について、ワクチン接種から時間がたち予防効果が薄れていることや、新系統が免疫を回避する能力を高めていることが考えられると分析している」。
 英フィナンシャル・タイムズの特設データサイト「新型コロナを追う(Tracking Covid‐19)」によれば、イギリスはそれほどではないものの、たしかに、フランス、ドイツ、スイス、イタリア、スペイン、オランダなどでは新規感染者数が上昇に転じている(データ更新が遅れている国もある)。ちなみに日本をそうした国々と並べて比較してみると、今のところ、感染者が「激増」しているわけではないこともすぐわかる。
 世界はまた、ロックダウンや緊急事態宣言に翻弄されるのであろうか。
 朗報がないわけではない。オミクロン株は重症化率が低いとされているが、ロンドン大学キングスカレッジの調査によれば、後遺症の発生率も、以前にわれわれを震撼させたデルタ株の半分ぐらいだとわかったという(無署名「オミクロン後遺症率デルタの半分」、共同通信、六月二七日)。
 また、モデルナ社がBA.4やBA.5に対して強力な抗体反応を生みだすことができるワクチンを開発したとも伝えられている(Madeline Halpert「新型コロナとの戦いに転機、モデルナ新ワクチンのブースター接種でオミクロン変異株への強い抗体」、Forbes JAPAN、六月二三日)。
 また通信社のブルームバーグによれば、最新の統計で、日本の新型コロナウイルス感染症の致死率はOECD加盟国のなかで最も低いことがわかったという(Kanoko Matsuyama、ジェームズ・メーガ「新型コロナ致死率の低さで日本がOECD首位、基本はやはりマスクか」、Bloomberg、六月二〇日)。人口一〇〇万人あたりの死者数は日本では二四六人で、OECD加盟国三八カ国の中で最も少ない。この記事は「日本の状況が中国などアジアの近隣諸国と全く異なる点は、都市封鎖(ロックダウン)もせずに低い致死率を維持したことだ」と書く。「日本が取ってきたこうした方法は、トップダウンで実施し、人々の反発を招いた他の国よりも機能した」という指摘も重要だ。
 またこの記事が紹介するワシントン大学の保健指標評価研究所のまとめによると、日本のマスク着用率は九〇パーセント以上で、ほかのG7各国を圧倒する高さである。
 こうした傾向を、欧米では人々はみな「個人主義」であるのに対して日本では「集団主義」であり、「同調圧力」が強いからだ、と解釈する人たちがいるようだ。しかし、そのことを裏づける科学的な根拠はない。
 逆のことを裏づける研究結果はいくつもある。たとえばある研究者らは、日本人とアメリカ人それぞれについて、個人主義なのか、それとも集団主義なのかを調査した実証研究三〇件をレビューした。そのうち一九件では明確な差が見られなかった。一一件では、日本人のほうがアメリカ人よりも個人主義的であるという結果が出ていた(Yohtaro Takano et al., Comparing Japan and the United States on individualism/collectivism: A follow‐up review, Asian Journal of Social Psychology 21(4), 2018, p.301‐316.また、高木修監修『文化行動の社会心理学』、北大路書房、二〇〇五年、にも詳しい解説がある)。
 つまり日本人の高いマスク着用率は、「集団主義」や「同調圧力」では説明できない。
 筆者は単純に、日本人は花粉症対策でマスクを着けることに慣れているからではないか……と思っているのだが、それもまた科学的な根拠はない。どなたか検証していただけると幸いである。
(叡啓大学准教授・社会学・生命倫理)







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