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評者◆凪一木
その149 ああ霞が関
No.3550 ・ 2022年07月09日




■私が異動となったのは、結局、某省庁である。駅でいうと霞ケ関だ。「本郷(東大)、三田(慶応大)、高田馬場(早稲田大)」「汐留(日本テレビ)、赤坂(TBS)、六本木(テレビ朝日)」といった三大名所ではないが、「永田町(国会議事堂)、霞が関(官庁)、虎ノ門(文科省)」の、あの霞が関である。
 現在「人生一〇〇年時代の結婚と家族に関する研究会(第一一回)」の資料が、内閣府のサイトに掲載されている。小林盾会員の資料「人生一〇〇年時代における恋愛の役割はなにか‥支援による恋愛格差社会への挑戦」には、〈壁ドン・告白・プロポーズの練習〉を教育に組み込むとある。この内閣府も霞が関だ。その外局として宮内庁、金融庁、消費者庁がある。警察庁は国家公安委員会の下部組織で外局ではない。内閣府の特別機関である。
 現在ある省庁は、内閣府(もともとは総理庁)のような「府」は一つ。総務省(自治省と郵政省と総務庁が統合)のような「省(本省)」が一一。デジタル庁と復興庁が独立した「庁」の二つで、文化庁のように文部科学省の外局である「庁」は二〇あり、全部で三四の省庁ということになる。私がどのビルの管理をしているかは、その中の一つである。と言っても、各省庁に建物が一つとは限らないので、その辺は曖昧に、グレイにしておく。
 皇居の南側、桜田門を出ると、桜田通りが真っ直ぐ広がっている。通りの右手は手前から順番に、警視庁、総務省、外務省、財務省、文部科学省と続いている。左手は、警視庁の向かいの法務省から始まって、順に、東京高等裁判所(地裁も含む)、農林水産省、経済産業省と続いている。霞が関一~三丁目だ。メトロの駅名は「霞ケ関」だが、地名は「霞が関」である。
 外務省は、一丁区画を全部占有しているが、ほかは複数の省庁が混在している。法務省の裏には検察庁、東京高等裁判所の裏には東京家庭裁判所、農林水産省の裏には厚生労働省と環境省、経済産業省の裏には資源エネルギー庁や中小企業庁、総務省の裏には国土交通省、文部科学省の裏には金融庁、さらには霞が関ビルがある。
 桜田通りは、そのまま真っ直ぐ行くと神谷町を通り、東京タワーを過ぎ、慶応大を通り、五反田を過ぎていく。戸越からは第二京浜と名称が変わる。
 メトロの霞ケ関駅は、日比谷線、丸ノ内線、千代田線が、農林水産省をコの字型で、日比谷公園側を開けた形で取り巻いている。
 モデルナワクチン接種を各省庁合同の一カ所で行う。一・二回目は文部科学省、三回目は外務省で行っている。六万人が受ける。一日平均一五〇〇人だ。といった話は、何を書いてもマークされそうなので、ぼかしておく。調べれば出てくる。
 オーナー側が、A省庁のT管理室、こちらのBMに当たる(実際は共同企業体ジョイ
ントベンチャーなので同等)Nビルマネジメントは、K管理室となり、T工業は、下請けのような元請けだ。仕組みだけはややこしいが、前の民間ビルのような孫請け状態ではないので、全く風通しが良く、何の軋轢もない。警備も、いくつかの会社が守衛室、防災センターその他に分かれて混在しているが、部屋も設備とは別で、接触機会もなく、前の現場のようなべったりと隣にいる環境とは全く違う。顔と名前が一致しない程度に、棲み分けというか、隔たりがある印象だ。
 ハッキリ言うと、パワハラが存在せず、暇だ。目の前のビルの某省の責任者は、私の元同僚で、彼は人生を見つめ直しているという。悪く言うと人生の墓場だ。
 民間では一年に一回の停電作業という点検作業がイベントのように大々的に行われる。たとえば或るビルで私が経験した停電作業を書き留めたものが以下である。来館業者は以下の九社一〇ユニット確認した。あいうえお順で記すと、
 1=(株)関電工(供給用配電箱)、2=(株)関電工(店舗開閉器盤電力量計交換・試験調整)、3=大日本印刷(停電に伴うIDCMサーバー対応)、4=東京ガスエンジニアリングソリューションズ(停電作業後の受入盤確認)、5=東芝コンシューママーケティングソリューションズ(カメラ障害調査)、6=東芝電機サービス(非常用〔UPS・自家用〕発電機設備点検)、7=東和電機工業(マルチリレー交換作業)、8=日本エレクトロニックシステムズ(MDF室電話対応停電対応)、9=日本テクニカルサービス(サーバー機器発停起動確認)、10=メジャーシステム(高圧電気室、UPS室、PHほか受変電設備対応)といった内容で、総勢五〇人以上が関わり、設備員も全員参加というスタイルが一般的だ。
 ところが、その某省では、もう四年も停電作業をしていないという。驚いていたら、私の来た某省は、さらにもっと長くやっておらず、去年久しぶりに作業したら、泊まりの人間が寝坊して、パジャマ姿で起きてきたという。そういうのどかな現場なのである。
 よく、ビル管の三大悪質現場として、「病院・ホテル・百貨店」が挙げられる。私は前の二つを経験した。本当に酷かった。ノーベル賞受賞の病院は、怒号の嵐で、次の現場は、ノーベル賞を逃した三島由紀夫が挙式したホテルで、ソロバン塾みたいな詰め所でのまさに奴隷だった。日本人の三大死因である「がん・心臓病・脳梗塞」のうち、前の二つを経験した。胃がんで全摘し、不安定狭心症で、ステントを冠動脈に入れている。百貨店と脳疾患を経験すれば三大現場、三大死因のいずれも制覇だ。
 といった状態で、死の直前に、やっと「平和でまったり」としてネットでも有名な「官庁」に潜り込んだわけだ。市・区役所もまた、似たようなマッタリ現場であることを、経験者から直接に聴いている。
 たとえば、何かミスをすると、その人間の全責任、戦犯扱いして、もしこれが、時期が重なっていたら、人がそこにいたら、などと、可能性の話まで被せて説教してくる奴がいる。これが普通のビル管の姿である。上司や同僚にも、「監督者」として、「指導者」として、責任があるだろうはずだが、そういうことを隠すように、誤魔化すように、さらに声高に叱責してくる。また、感情の籠ったかのような、大袈裟な物言いである。嫌がらせのように、相手を貶めるような言い方をする。さんざん経験をしてきた。
 これはしかし官庁であろうと、一歩間違えばそうなるはずだ。だが、なかなかそうはならない。ゆったりとした空間がある建築物の作りやゆったりとした仕事内容による。もちろん、それだけではない。いずれ、おいおい書いていく。
(建築物管理)







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