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評者◆凪一木
その148 動けよ2~ビルの地下から、批評の末席を埋める者として
No.3549 ・ 2022年07月02日




■逃げていく現実。野放しとなる悪人。なるべく現実から逃避して、事実から目を背けたい。過去や二次元や特撮へと逃げていく。『キネマ旬報』の表紙が、性強要事件発覚直後の四月下旬号「オードリー・ヘップバーン」、映画界性強要の続報で騒動となった火中の五月上・下旬合併号「シン・ウルトラマン」となったことは前号で書いた。
 女性や下請けや取引先に対して、お金や欲望のだらしなさとで、相手を見下す態度は繋がっている。芸能の世界であろうが、一般社会であろうが、だらしない奴はだらしなく、早い段階であればもちろんよいが、手遅れになってさえも、その都度その都度、許してはいけない。その許す原動力となるのは、見て見ぬふりである。相手がやくざでも粘り強く諦めない。自分が不当に軽く扱われることをよしとしない。
 木村拓哉主演の新ドラマ「未来への10カウント」は面白いが、第一話の見せ場となるシーンが雑である。木村演じる元高校四冠チャンピオン達成の伝説のボクサーは強すぎる。そこまではよい。主人公は、ピザのデリバリーを生業としている。そこでお届け先にいる悪者は、お金を払わずに、暴力で配達人である木村を追い返そうとする。計画的な無銭飲食だ。これに対して、当然強い木村は、相手を恐怖させお金を受け取る。こんなことはあり得ない。木村自体の有り得なさは、一つ目のウソとしてよい。だが、犯罪者である奴らの登場は二つ目であり、作劇の「形として」禁じ手ではないか。解決の仕方は特殊×特殊であり、悪影響の素だ。手本や見本をドラマが映さなければならないという使命や義務があるわけではない。だが荒唐無稽な絵空事は、被害に遭う側を失望させる。悪を働く側には好都合や弁明の要素を与える結果となる。
 映画やドラマの持つ加害性は、こういう処にある。強いキムタクが身近にいないこの現実社会では、どうしたらいいのだ。悪の天下ではないか。
 木下ほうかを訴えたSさんの記事。
 〈「11月10日、木下の代理人を通して返答の通知書が届きました。内容は《性行為は、両名間の合意のもとに行なわれた》《損害賠償(慰謝料)請求には応じられません》というもの。言葉も出ませんでした……」(中略)事実に基づく対話が叶わないことを鑑みて、弁護士と共に告訴状を作成。警察に向かったが、Sさんを待ち受けていたのは非情な対応だった。「聞き取り調査に応じたんですが“身体に傷がない”“犯行現場の正確な情報がない”といった理由から、証拠不十分であるとして告訴状は受理されず、捜査してもらうことすら叶いませんでした。(以下略)〉(『週刊女性』PRIME)
 この無力感・脱力感は、下請けの人間(凪)が、元請けの上司に当たる人間のパワハラを二〇項目にまとめて書いても、「検証しましたが、その事実は確かめられませんでした」との報告だ。聞き取り調査を受けた人間たち本人から、「あの野郎のパワハラ行為を洗いざらい証言したよ」と、はっきり私は聴いている。
その結果の回答がこれなのだ。しかもその場でこう言い放った。
 「一方だけの主張では動けない。凪さんが黒だと主張し、当事者が白だと主張するのだから、平行線にしかならない。はっきりとした証拠を出してもらわないと、こちらとしても対処できません」。
 私の方が、ウソの申し立てでもして、相手を罠に嵌めてでもいるかのような言い草だ。
 木下氏の犯行が事実として、それでも、「芸能人のなかには、そんな奴はいるさ」と他人事で済ます者がいる。事実として、ここに出てくる「代理人」と「警察」である。彼らは、被害者よりも加害者に手を貸す行為をしている。それについても、「弁護士なんてしょせん利益になれば悪にも加担するさ」「警察なんて、面倒臭ければ、被害者のことなんて考えないさ」と、やはり、加害者に手を貸す発言をする者がいて、その「評者」もまた、手を貸す行為者である。「大手を相手に闘っても無駄ですよ、凪さん」と、どこの肩を持っているんだと言いたくなるような同僚たち。
 映画雑誌がキャンペーンをやらなきゃいけないなかで、ほぼ沈黙状態であれば、彼らもまた「お仲間」と思われても仕方ない。『週刊文春』『週刊女性』『FRIDAY』など、別に頑張っているわけでもなく、普通のことだ。ただ映画雑誌が情けないだけだ。
 かつてにっかつロマンポルノを見てきて、当時から、ずっと、いくつかの作品に関しては「悪影響」を恐れた。たとえば上記の木下の行為が、そのまま映画のなかで展開されて、被害者が泣き寝入りする描写を当たり前のように、物語の中心テーマとは別の風景描写程度に描かれていたりするのを、私だけかもしれないが、ひどく不愉快に思って見ていた。
 「あれは強姦強要ではないのか」。当時から日常で熱く語っても、「どうでもいい」かの反応だった。映画関係者こそが問題とするべきだろう。私の提案など無視されてきた。だから、「ポルノ映画なんて見ないよ」という一般の人の取る態度も、よく分かる。そういう視線から目を逸らそうとしたら、井の中の邦画村として、孤立するだけだ。
 「苦しいときには私の背中を見なさい」。そう言ってチームを鼓舞したサッカーのレジェンドは、澤穂希だ。背中で、行動で、態度で示したのだ。
 そして映画界にも現れた。鈴木砂羽だ。四月一二日午前〇時、Noteに「無性に書きたくなって。」というタイトルの記事を発表した。
 〈もちろん女性全員が自分のように向こう気が強くて反発できる人ばかりじゃない事はわかる。その場になったら怖くてどうしても抗えない状況になってしまい、身動き出来なくなって、言う事を聞いてしまう人もたくさんいるとは思う。でもそんな時は思い出して欲しい。こんなところで自分を堕として汚してはいけない。今この場であなたを力で捻じ伏せる奴なんて所詮大した事ない。役をあげるから、なんて甘い誘いになんて決して乗ってはいけない。(中略)たった一時の役をもらうために奴らの誘いに乗り、身体を与えることは奴らを増長させる原因にしかならない。そして自らが安上がりに簡単に搾取され、馬鹿にされ続けている事に早く気付いて欲しい。もっと自分を大切にして欲しい。もしそんな状況に陥りそうな時、ワタシのおっかない顔でも思い浮かべてください。〉
 私もまた、ビルの地下から、犯罪者が聞いて耳の痛がる話を、もっと積極的にしていきたい。(建築物管理)







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