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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑳
No.3543 ・ 2022年05月21日




■私が「アベ政治」なるものへ批判的に対峙するようになって、かれこれ十年が過ぎようとしている。その間をふりかえってつくづく思うのは、言葉をまったく信じていない人間を政治家にしては絶対に駄目だということだった。言葉を信じていないから嘘も平気でつける。言葉を信じていないから憲法も簡単に改正できると考える。
 安倍氏はこのところさまざまな機会を捉えては、憲法改正の必要を相も変わらず説きまわっているようだ。4月17日に福島県郡山市でおこなった講演では、戦時下のウクライナ情勢を引き合いに出しながら「戦い抜く人たちには誇りが必要だ」と述べ、改めて憲法に自衛隊を明記する必要性を訴えた。「自衛隊」の三文字が憲法に明記されていないから、自衛隊員が「誇り」を持てないという理屈だ。
 私は自衛隊員ではないが、内心でわが国の自衛隊にはつよい信頼感を抱いている。大災害にあった被災現場に駆けつけ、困難な救助にあたるその頼もしい姿に、これまでどんなに勇気づけられてきたか分からない。それだけではない。自衛隊は創設されてから今日まで、ただの一度も自国民に銃を向けたことがない。そして、今後もそうであり続けるものと確信する。この事実は私のなかでとてつもなく大きい。
 自衛隊員ではない私が思うことだが、国民からひろく信頼され頼りにもされる相互の関係性がより太く保たれることで、自衛隊員としての「誇り」もごく自然に育ってくるのではないのだろうか。
 いったい憲法に「自衛隊」の三文字を書き加えるだけで国を守る「誇り」が生まれると本気で思っているのか。言葉をすこしだけ弄れば現実のほうも都合よく変わってくれると発想することじたい、浅はかなこと極まりない。言葉の重みを知らないからこそ、こういう愚にもつかない説法しかできないのである。
 政治家の言葉は、現実に人を殺す道具にもなるのだ。言葉をはなから信じていない愚鈍な者にそれを使わせては絶対に駄目だ。
(つづく)







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