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評者◆ぽんきち
古今東西のおとぎ話の源
夜ふけに読みたい はじまりのイソップ物語
田野崎アンドレーア嵐/和爾桃子編訳、アーサー・ラッカム絵
No.3541 ・ 2022年04月30日




■海外民話集「夜ふけに読みたいおとぎ話」シリーズの7冊目。これまでにイギリス編2冊、アイルランド編2冊、グリム童話編2冊が出ているが、そもそもこれらのお話の原型となったのがイソップ物語だという。そういうわけで「はじまり」と冠されている。
 イソップ寓話と聞くと、うん、知ってる知ってる、「すっぱいぶどう」のお話とか、「アリとキリギリス」とか、「北風と太陽」とか、だよね、と思うわけだが、あらためて考えると、あれ、どういう謂れのお話だっけ? 本書でも簡単に触れられている。
 著者であるイソップ(=アイソーポス)は、紀元前6~7世紀の人物。満足な記録が残っておらず、その生涯には不明な点も多い。小アジア、プリュギア生まれ。祖国が滅び、奴隷として売られた。身体が不自由だったといわれる。行った先はサモス島の学者の家で、そこで何年も働いた後、解放され、ギリシャ各地を寓話の語り手として回る。大変な人気を博したが、デルポイで市民を怒らせ、崖から突き落とされて命を落としたようである。
 イソップの物語は必ずしも彼がすべて作ったわけではなく、出身地でよく語られていた伝承物語も含む。だがそれをうまく脚色しておもしろく語ってみせたのが彼の功績というところか。
 イソップのお話は、その死後も広く各地へと伝わっていく。その過程で少しずつ姿を変えるものもあった。例えば「アリとキリギリス」のキリギリスは、原話はセミであったのが北ヨーロッパでキリギリスに代わり、その形が残った。かの地ではセミがあまり目立たず、まずセミが何なのかを説明しなければならないため。それではお話のおもしろさが半減してしまう。
 伝播する過程で様々な人がイソップ物語に関わる。死刑になる前のソクラテスが手直しをし、メディチ家では豪華本を作らせ、そして時を超えて、イギリスでは画家のラッカムが美しい挿絵を描いて普及に一役買った。その挿画は本書にも数多く採られている。
 イソップの物語は各地で姿を変え、また同時に、各地にお話のタネをまいていった。そして様々なお話へと芽吹いていったわけである。
 さて、本書には140ほどのお話が収められる。古代ギリシャ語で残っているお話はギリシャ語から訳し、英語版とギリシャ語版両方から訳して、比べることができるようになっているお話もいくつかある。1つ1つはごく短く、寓話というか、教訓話みたいなものも多い。アイソーポスはなかなかにシニカルな人だったようだ。この調子でもっともらしく説教臭いことを言われると、癇に障る人には障りそうな感じもする。
 なるほど、ギリシャなんだなと思うのは、ところどころにヘラクレスやプロメーテウス、ヘルメース、ゼウスなどのギリシャ神話の神様や英雄が出てくるところ。しかしあんまりいかめしくはなく、どこか親しみやすい。
 本書では、案内役のネコたちがところどころで登場して、なかなかマニアックな解説をしてくれる。曰く、アポローンは知性派だけど実は怒りっぽく、地雷を踏むと孫子の代までねちねち祟られる(オイディプスとか)。対して、ヘラクレスは苦労人で面倒見がよいとされ、イソップの故郷のプリュギア王家はヘラクレスの子孫を称しているそうである。
 短いお話を読みながら、お話がたどってきた道にも思いをはせる。夜ふけの読書にはぴったりである。







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