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評者◆秋竜山
魚の目と遠近法、の巻
No.3537 ・ 2022年04月02日




■海の中を泳いでいる魚を見ると、顔面がとがっていて、目の位置が顔面にではなく、両側に一つずつついていることがわかる。これで前方を見ることができるだろうか。右側と左側で別々に見えるのではなかろうか。そう思ったのは子供の時、夏の海へもぐった時、魚の不思議な顔面に気づいたからであった。ヒラメという魚は、片側に二つ並んで目がついている。もしかすると、ヒラメだけではないだろうか、片面に二つの目が並んでついているのは……。他の魚は正面の顔に目というものはない。それで前を見て泳げるのか。つまり、前方が見えないのに前へ向かって、泳いでいるということになる。
 布施英利『遠近法がわかれば絵画がわかる』(光文社新書、本体八八〇円)では、〈「構図がわかれば絵画がわかる」「色彩がわかれば絵画がわかる」「パリの美術館で美を学ぶ」本書は「絵画がわかる」三部作の完結編〉。よく考えてみたら、魚の正面をよく見るには、海の中でなく魚の正面を見た絵を見ればよくわかるというものだ。魚は海中で上向きになって泳いでいるわけでもなく、下向きで泳いでいるわけでもない。すべての魚が横になって泳いでいる。
 〈人は、一つの目と二つの目で世界を見ています。そこに見ている世界は、同じ一つの世界ですが、一つの目で見た世界と二つの目で見た世界は、同じものではないのです。遠近法、つまり空間の奥行き、ということでいいますと、二つの目で、近い距離にある立体(=遠近)を見ています。一方、一つの目では、ある程度以上(たぶん手が届かないくらい)遠いところにある遠近を見ているのです。〉(本書より)
 魚は片面を一つの遠近、もう片面で一つの遠近を見ている。そして両方の目で一つの遠近を認識している。と、これは魚に聞いてみなくてはわからないことだ。とにかく、正面の顔面には目がなく、あるのはとがった顔面に鼻と口だけしかないからだ。そう思いたくもなる。
 たとえば、アジのひものを見ればよくわかる。食べる時、片面にわった身を別々に食べる。そして片面ずつに目がついているのである。一ぴきのアジを片面ずつにしないとひものにならない。それは、ひものにした場合のことであって、もし、ひもののようにして海を泳いでいたら、アジは今まで見たことのない海の中の風景を眺めることになるだろう。
 〈古代エジプト美術は、ピラミッドや神殿の壁に描かれたり飾られたりした絵画や彫刻です。絵画の描き方は独特で、たとえば人物を描くのに、横顔の輪郭に正面から見たものが合成されたりしています。空間の奥行きを感じさせるような「背景」もなく、ぺちゃんこにつぶされたような人物や動物、神々やさまざまな物(=オブジェ)も描かれています。その絵画の表現手法は徹底して二次元的です。(略)この奥行きのない感じ、二次元性の特徴は、彫刻にも見ることができます。古代エジプトでたいていの彫刻は、人物でも動物でも神でもまっすぐ正面を向き、体を斜めにねじったりしていません。まるで正面と側面だけが四角い箱におさまっているようですらあります。前から見たら平面、横から見たら平面で、彫刻という立体物であるにもかかわらず二次元性が強いのです。〉(本書より)
 エジプト絵画にアジのひものを干してある画が描かれていたら……。それに、ミイラになって残っていたら……。古代エジプト人も、アジのひものが大好物であったりして……。







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