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評者◆秋竜山
ケッサクの夢、くだらない夢、の巻
No.3536 ・ 2022年03月26日




■枕元へ白い紙とエンピツを置く、そして眠りに入る。朝、眼がさめる。枕元の白い紙には眠っている時に書いた文字や、マンガのアイデアによる画がゴチャゴチャと書きとめてある。モーローとした意識の中で、「これは大ケッサクだ」と思いつつ書いたものであった。しかし、眼ざめた時、あきれかえってしまう。書いている時に、あんなに大ケッサクだったはずなのに、わけのわからないくだらないラクガキでしかないのである。
 末木文美士『日本の思想をよむ』(角川ソフィア文庫、本体九六〇円)では、
 〈伝統思想をどのように学んだらよいかという手がかりが必要だ。いちばん必要なことは、古典をしっかり自分の目と頭と心で読みこむことだ。それにはどのような古典を、どのような観点から読んだらよいのか、その手引きが必要になる。(略)本書はこのような日本の伝統思想に関して、これと思われる古典を取り上げ、ごく私なりの見方を掲示してみた。〉(本書より)
 そして、〈明恵「夢記―世俗の欲望で世俗を超える」〉に、ついて。
 〈明恵はまた、見た夢をいちいち記録に残した「夢記」でも知られる。夢は現代では抑圧された無意識の表現などと解釈されるが、もともとはこの世界を超えた神仏の顕現する通路として重要なものであった。明恵と同い年の親鸞も、六角堂に参籠して、夢のお告げにもとづいて人生の最大の転機を決断している。それにしても、明恵ほど几帳面に夢を記した人は他にいない。その夢の多くは仏に関するもので、夢が仏に近づくための確かな手立てとみなされていたことが知られる。その夢の中には、性的な生々しさを伴うものもある。若い頃の夢に、端麗な美女が出てきた。明恵はその美女と一緒にいたが、無常にも彼女を捨てた。しかし、彼女は明恵に親しんで離れようとしない。それを無理に捨て去ったというのである。(略)起き出して夜中に禅堂で座禅を組んでいる。〉〈同十一月六日の夜、夢に云はく、(中略)一屋の中に端厳なる美女有り。衣服等奇妙也。而るに、世間之欲相に非ず。予、此の貴女と一処に在り。無情に貴女を捨つ。此の女、予を親しみて遠離せざらむ事を欲す。予之を捨て去る。更に世間之欲相に非ざる也。〉(本書より)
 明恵は、見た夢をいちいち記録に残したというが、私も、眠る前の枕元へ白い紙とエンピツを置く、そして眠りに入るということは一緒のようであるが、明恵のような夢のお告げもなければ、六角堂に参籠する必要もない。本来、夢というものは、朝起きた時には忘れてしまうものである。「ハテ? ゆうべ夢をみたが、どんな夢であったかしら?」と、フトンの中でいくら考えてみても想い出せない。すべての夢がそんなものである。だから眠る前に枕元へ筆記用具をそろえるわけだ。なんともくだらない夢であるからして、夢など見なければよいと思うのだが、見てしまうのだから仕方がないのである。見る夢をコントロールすることはできない。待てよ!! 今夜あたり明恵と同じ夢を見たとしたらどーしましょうか。もちろん枕元の白い紙にはわけのわからない、くだらないラクガキだろう。







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