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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑱
No.3535 ・ 2022年03月19日




■安倍元首相が「日本の誇り」と題した連載を夕刊フジ紙上で始めているが、その第一回目「ウクライナ危機に迫る」(2月19日)を読んで、つよい眩暈に襲われた。この人の場合、言うこととやることの言行不一致はいまに始まったことではないが、それにしてもこれはさすがに寒すぎる。
 「まず、武力行使を含む、他国への侵攻は決して許されない。これは明確に指摘しておきたい」のだと彼はきりだす。おい、ちょっと待ってくれ。あんたがそれを言うか? 2014年の解釈改憲の閣議決定を取り仕切ったのはあんただろう? そこでいったい何を決めたんだっけ?
 「我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること」を「武力行使の新三要件」と位置づけ、集団的自衛権の行使容認を、憲法九条の規定を完全に無視するかたちで決定しましたよね?
 折しも、ロシアによるウクライナへの武力攻撃が開始されたとの第一報が入ってきたばかりだった。プーチン大統領のやり方はじつに巧妙で、まずウクライナ国内の二つの州の中にある親ロシア派の勢力版図を新しく国家として独立させた。そして一方的に独立を承認したそれらの国から、対ウクライナへの武力行使をロシア側が要請されたことにして、自国軍のウクライナ侵攻を平和維持のためと正当化したのである。つまりこの行為は、ロシアによる集団的自衛権の行使という架空の大義に則った、ウクライナへの重大な主権侵害いがいの何物でもない。
 わが国の「武力行使の新三要件」とも完全に重なる軍事的シナリオが、今回のロシアによるウクライナ侵攻ではそのまま実践されたことになる。そういう碌でもない枠組みをつくった張本人が、「他国への侵攻は決して許されない」などといくら語ったところで、何の説得力も持たないのは断るまでもない。
(つづく)







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