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評者◆秋竜山
時代を超えた川柳の笑い、の巻
No.3534 ・ 2022年03月12日




■江戸川柳を江戸の人々はこぞって大笑いした。その同じ川柳を現代人もみて同じように笑う。時代を超えた笑いがそこにある。一つの川柳を「アハハハ」と身を腹をよじって笑いあえる。それが川柳というものだろう。
 神田忙人『江戸川柳を楽しむ』(朝日選書、本体一四〇〇円)では、その川柳について……。
 〈いまわれわれが川柳と呼ぶものは江戸期には前句付、あるいは略して前句とも呼んでいたものであり、川柳という名称は明治の中期から後期にかけて確立したものである。浅草の名主、柄井八右衛門が川柳の号を用い、前句付の点者(選者)として成功を収め、のちに次第に前句から離れて一句立の句を中心にして時代の好尚に投じて選句集「誹風柳多留」を刊行し、人気で他の点者たちを圧倒したため、彼の名がいつしかこれらの句を代表するような有様になった。彼の選んだ前句付けは「川柳点の前句付け」と呼ばれ、略して川柳点ともいわれたが、他の点者の選句も川柳点と呼ばれることも多かったようだ〉(本書より)
○突あたり何か囁き蟻わかれ―柳一〇一
○菅笠で犬にも旅のいとまごい―柳初
○かっぱをいけどりさて餌にこまり―柳三二
○遠くのていしゅより近くの他人也―柳五一
○いいかげん損得もなし五十年―拾遣三
 〈これは「いいかげん」という上の句が出題され、これに付けた句で、冠付という型である。五十年は人の一生。生涯を回顧するとその損と得はだいたい同じ程度だったなァというのである。このような人生論とでもいうべき句も少なくはない。〉(本書より)
○こせ/\こせ/\と母親は叱り―親
○朝がえりだん/\家へちかくなり―柳一
 〈一歩一歩、家へ近づいてゆく、その困惑と緊張感を見事にあらわした名吟である。〉
 〈江戸川柳は約二十万句が残されているが作者名のわかるのはごく一部にすぎない〉
○女房のやくほど亭主もてもせず―柳
○居候二杯目にはそっと出し―逸出典
 居候の肩身のせまさは現代も江戸時代もちっともかわらないだろう。二杯目というからゴハンだろう。食パンであったら二杯目とはいわない。二枚目となる。一枚を食べ終える。「そっと出し」では、空になった御はん茶わんがないから、何を「そっと出す」のだろうか。パンの場合はどうしたらよいのだろうか。「もう一枚」と、でもいうのだろうか。御はんだったら、「もう一杯」と、空になった茶わんをそっとさし出すが、パンの場合は「もう一枚」とでもいうのだろう。
○半分は枕へゆける五十年―拾遣九
 〈人生五十年、その半分は眠っている時間だ。〉
 たったの五十年の人生である。その分をもったいなくて、眠っているわけにはいかないだろう。
○泊り客は少しは義理の朝寝する―柳五二
 早起きして「朝ごはんはまだですか」とは、いえないだろう。フトンの中で腹の虫をおさえている。
 江戸川柳は現代のマンガのようなものである。笑えなかったら川柳ではない。俳句と違って季語がない。







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