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評者◆秋竜山
さびしい卒業式、の巻
No.3533 ・ 2022年03月05日




■そういえば、父が家では、新聞などを読む時は、必ず声を出して読んでいたものであった。新聞というものは、声を出して読むものだと、子供の私はそう思っていた。それにしても、何とも不思議な読みかただと思った。
 齋藤孝『50歳からの音読入門』(だいわ文庫、本体七〇〇円+税〉では、
 〈声に出してすばらしい日本語を読み上げることです。なぜならば「音読」というのは、日本語を味わうための「王道」とも言うべきものだからです。(略)日本人の読書は「黙読」に傾いていきましたが、明治くらいまでは「音読」「素読」の伝統が生きていました。(略)ですから、夏目漱石や森鴎外、幸田露伴など、“素読世代”の作家たちの書いた文章には、声を出して読むときの熱量やリズム、テンポが入っています。そこに「音読」するのにふさわしい味わい深さがあるのです。〉(本書より)
 父が家族の中で声を出していた新聞も、声を出さなくなったのはどうしてなんだろうか。そういう読みかたが時代にそぐわなかったのか。新聞の記事の書き方がそのようになってしまったからなんだろうか。音読しなくなってしまった。私は子供心に父の読む新聞の声が黙読に変わってしまい淋しくもあった。音読してくれれば、新聞に何が書いてあるのかわかったものであったのに。
 昔、卒業式などで唄った「あおげば尊し」という別れの歌も、今では唄われなくなった。眼になみだをためて、声をあげて唄ったものだ。なぜ、今の時代になって唄わなくなってしまったのか、わからない。
 「あおげば尊し」

 一、あおげば とうとし、わが師の恩。
教の庭にも、はや いくとせ。
おもえば いと疾し、このとし月。
今こそ わかれめ、いざさらば。

 二、互にむつみし、日ごろの恩。
わかるる後にも、やよわするな。
身をたて 名をあげ、やよはげめよ。
いまこそ わかれめ いざさらば。

 三、朝夕 なれにし、まなびの窓。
ほたるのともし火 つむ白雪。
わするる まぞなき、ゆくとし月。
今こそ わかれめ、いざさらば。(本書より)
 卒業式の歌であった。この歌を合唱しないと卒業式をやった気分にならない。
 〈人生には、いろんな別れがあります。その最初の一大イベントは、学校の卒業式だったのではないでしょうか。かけがえのない友と、「進む道は異なるけれど、いつまでも友だちでいよう」と手を握り合った。あるいは、異性の同級生への密かな思いを胸に、声にならない別れの言葉を告げた。いま思い出しても胸がキュンとする。そんな思い出があるかと思います。五十歳以後の世代の人ならば、「あおげば尊し」の歌とともに、思い出がよみがえるでしょう。〉(本書より)
 今の卒業式は「あおげば尊し」を唄わなくなってしまったのも本当に不思議だ。合唱することで生徒と教師のなみだを流す光景もみれなくなった。さびしい卒業式になってしまったのである。







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