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評者◆小嵐九八郎
書評が不要なぐらいふさわしい帯文――砂原浩太朗著『黛家の兄弟』(本体一八〇〇円、講談社)
No.3533 ・ 2022年03月05日




■俺にだけとは思えないけれど、老いると時間が速い。この前、独立しない娘二人に御年玉を毟られたら、もう節分・豆まきがすぐそこ。青春時代に、恋人から“焦らし”戦術を行使されて時間が途轍もなく長く感じたのを思い出すと、何か時間の魔力みたいなのを考えてしまう――もっとも、その時の恋人とは今のかみさんで、現在は「風呂に早く入りなさい、冷めると熱くしなけりゃいけなくて家計の負担」、「早く外へ出て、喫茶店で原稿を書きなさい。掃除ができない」、「失敗した原稿用紙は丸めて捨てないで。わたしが、家計簿とかメモ用紙に使うから」とうるさく言う。
 正月の三日間は年賀状を読み、出し損ねた人達へ書いて終わった。四日目からは、某社の書き下ろし原稿を、年間の目標へと至る手指の準備体操として一日三枚書き、残りの時間を貯めていた評論集や小説をかなりの冊数読んだ。
 老いると、悲しいというか、落ち着くところに行くというか、どうしても小説へと読むパワーは辿り着いてしまう。
 同じ小説でも、純文系が二割から三割、他はエンターテインメントのそれとなる。むろん、純文系でも、根本から世界と日本の矛盾を覆す小説なら最初から手を取り、貪り読むのだけれど、どうもそういうテーマと素材を扱ったのが去年はないように映った。
 それで、エンターテインメント系の小説で「よっし」というのがあった。というより、この作者、砂原浩太朗さんの前作である『高瀬庄左衛門御留書』(講談社)が老いの身の読書の仕方を鮮烈に撃ったからだ。
 その『黛家の兄弟』(講談社、本体1800円)を読んだ。新刊の本の帯には、売らんかなのための誇大宣伝が普通だが、この小説の帯の「静謐さ……陥穽あり、乱刃あり、青春あり――躍動感あふれる」は、素直、正直そのものである。書評が不要なぐらいにふさわしい。ま、俺には、加えるとすれば「昔も今もある“正義”とは何かの必死な問いがある」なのだが。







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