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評者◆粥川準二
感染拡大は比較的穏やかだが、警戒を解いていいほどではない――その複雑さに耐えよ
No.3531 ・ 2022年02月19日
■一月九日、筆者の住む広島とその隣の山口、そして沖縄では全国に先立ち、新型コロナウイルス感染症の「まん延防止等重点措置」が適用された。
この連載の前回で筆者は、日本は新型コロナのオミクロン株によるパンデミック第六波に襲われたとしても、欧米のような危機的状況にはならない可能性もあるのではないか、と予想した。その予想は本稿執筆中の一月三一日の時点で、半分当たってはいるのだが、半分外れてもいる。 たとえば英紙『フィナンシャルタイムズ』の「コロナウイルスの追跡調査(Coronavirus tracked)」というデータサイトで、新規感染者数の推移を比較してみると、オミクロン株が最初に拡がった南アフリカ共和国では、昨年一二月一七日の時点でピークを迎え(人口一〇万人当たり三九・五人)、その後は減少し続けている。一月の半ばには、日本は南アと逆転し、一月二八日の時点で、人口一〇万人当たり五〇人を超えて、いまおそらくピークを迎えている。イギリスは一月五日に、アメリカは一月一六日にピークを迎え、その後減少している。 そう書くと、日本だけが危機的状況にあるかのようにも感じられるが、それでも日本の人口当たりの新規感染者数は、欧米各国の数分の一に過ぎない(たとえばフランスの約一〇分の一である)。 同じデータサイトで、「症例(Cases)」ではなく「死亡(Deaths)」を見てみると、欧米諸国に比べて、日本ではほとんど何も起こっていないかのようにさえ見える。 ただし、日本が「欧米のような危機的状況」ではないとしても、日本には日本固有の問題があるのも事実だろう。 たとえば「COVID‐19 Japan 新型コロナウイルス対策ダッシュボード」というデータサイトは、「対策病床数」に対する「現在患者数」の割合を、県ごとに百分率で示している。それによると、一月二八日の時点で、すべての都道府県が一〇〇パーセントを超えてしまっている。全国では五〇六パーセント。つまり感染者の大半は入院できてない。 コロナ感染者のための病床の確保は、パンデミックが始まったころからずっと課題とされてきたはずだが、その課題はまだ解決されていないのだろう。筆者は以前、この連載で「医療崩壊」についていくつかの論考を紹介した(「新型コロナ・パンデミックで医療が崩壊する理由、そしてそれを防ぐ方法」、図書新聞、二〇二一年三月一三日)。この問題は複雑すぎて、筆者がこれを完全に理解し、説明することは難しい。しかしながらそれでも、現時点の状況が望ましくないことはわかる。 もっとも、すでに知られているように、オミクロン株の重症化率は低く、入院の必要がないケースも多い。しかし重症化率や死亡率が、たとえば一〇分の一になったとしても、感染者数が一〇倍に増えれば、重症者や死亡者の数は減らないはずだ。そしてオミクロン株は感染力(伝播性)が高いのである。 以上をまとめると、日本ではオミクロン株による感染拡大はこれまでと同じく比較的穏やかだが、警戒を解いていいほどではない、といったところだ。 一方、複数の言論人たちは、新型コロナはすでに風邪のようなものになっているので風邪として扱うべきだ、といった主旨のことをSNSやウェブ記事で発言している。しかし、これまでの知見やデータを参照する限り、それを言うのはまだ早いだろう。そもそも病床が足りていないのである。ワクチン接種も現時点ではまだ不十分だ。 また、『毎日新聞』は、広島がまん延防止等重点措置を適用されたことについての記事で、「酒を提供しないことでどれだけの感染予防効果があるのかデータで示してほしい。飲食店にばかり矛先が向いているようでならない」という飲食店の店主の声を紹介している(小山美砂「「酒提供停止の効果データで示して」まん延防止措置に疑問の声 広島」、同紙、一月二七日)。この店主の疑問はもっともである。しかし、その声をそのまま紹介しただけでは、記事として不十分である。 たとえば国立感染症研究所などは、「酒の出る会食」に多く参加した人は、少なく参加した人や参加していない人よりも感染リスクが高いこと、マスクを外していた場合にはさらに高いことなどを明らかにし、厚生労働省の専門家会合などで報告している。そして複数のメディアがそれらを報じている(無署名「“酒出る3人以上の会食に2回以上参加”で感染リスク約5倍か」、NHK、二〇二一年七月七日、無署名「マスク外して会食なら感染リスク「3・9倍」、2人以上でカラオケなら「9倍」…国立感染症研究所」、読売新聞、二〇二一年一〇月七日、など)。 また、アメリカの研究者たちによる調査でも、新型コロナ感染と「レストランでの食事」や「バーやコーヒーショップに行くこと」との間に強い関連があることが明らかになっている(Tenforde MW, et al., JAMA 325(14):1464‐1465)。 このような事実を踏まえず、ただ「データを示してほしい」という声だけを紹介するのは、報道の態度として無責任であろう。 ところで、筆者がここまでで述べてきたことは複雑すぎるだろうか? この記事の前半は、日本の感染状況は欧米諸国に比べてそれほど悪くはないことを説明した。後半は、特定の状況下では感染リスクが高いことを説明した。筆者はたしかに、日本の感染状況が、あるいは日本政府のコロナ対策が、最悪だとも最善だとも言っていない。 もしこれを複雑だと感じても、その複雑さに耐えてほしい。とくにあなたがジャーナリストや研究者、教員など、知識や情報を扱うプロであるならば、この複雑さに耐える義務があるはずだ。調べれば調べるほど、状況が複雑であることはすぐにわかるだろう。そこに目をつぶって、人々の注意を引くために単純化に走るのは、知的に不誠実かつ怠惰である。複雑さに耐えよ。 (叡啓大学准教授・社会学・生命倫理) |
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