書評/新聞記事 検索  図書新聞は、毎週土曜日書店発売、定期購読も承ります

【重要なお知らせ】お問い合わせフォーム故障中につき、直接メール(koudoku@toshoshimbun.com)かお電話にてバックナンバー・定期購読の御注文をお願い致します。

評者◆秋竜山
想像を絶する古代史のドラマ、の巻
No.3531 ・ 2022年02月19日




■浦島太郎の伝説を知らぬものはない。浦島太郎は助けた亀の背にのって龍宮城へつれていかれた。もちろん、龍宮城は海底のどこにあるかわからない。誰もがつれていかれたのではなく、浦島太郎一人であろう。
 関裕二『わらべ歌に隠された古代史の闇』(PHP文庫、本体七四〇円)では、
 〈やがて浦島は故郷を忘れ、仙都で遊ぶことすでに三年を経ていた。故郷や両親をなつかしく思い、悲嘆に暮れたのだった。(略)すると乙女は涙を流し「私の思いは、金や石のように固く、いつまでも一緒にいようと契ったのに、なぜ故郷を思い、わずかの間に私を捨てようとするのでしょう」といったが、浦島の決意は固かった。乙女は玉匣(玉手箱)を浦島に授けて、「もし私を忘れずに再びもどってきたいと思われるならば、ゆめゆめこの玉匣を開けてみてはなりません」という。〉(本書より)
 再び亀の背にのって故郷へ帰ることになる。浦島太郎の歌は子供の頃よく歌ったものである。〽助けた亀につれられて龍宮城へきてみれば絵にも描けない美しさ、という歌詞であった。絵にも描けない美しさとはいったいどのような美しさなのか。龍宮城へ行く時も帰る時も浦島太郎は亀の背にのってであった。
 そのせいか亀を見るとすぐ龍宮城のことが頭の中によぎるのである。若い頃、漁師(定置網)で働いていた私は、その定置網に他の魚と一緒にかかっていた亀を見ると、浦島伝説の亀を思い出してしまった。亀の背中にのった浦島太郎は海底深くななめに、もぐっていくことは、龍宮城は亀の行きつく先は海底の奥深くななめ先であるなどと思ったりしたものであった。絵本などに描かれてある名場面でもあった。漁師は定置網にかかった亀は他の魚とは異なった特別扱いだった。陸へあげると神主によってお神酒を亀の口にふくませてお祈りをした。そして海へ放してやるのであるが、若手の漁師が亀の背にのって亀と一緒に海の中へはいっていった。海へはいり亀も猟師の姿が見えなくなると同時に漁師だけが苦しまぎれに海面へと飛び出る。その様子の面白さに見物していたものたちは手をたたいて笑っておがんだものであった。亀だけ海底へもぐっていったのであるが、海の中でお神酒で内臓が焼ききれて死んでいくことになる。そのことをみんなしっていた。にもかかわらず、何というザンコクなことか。このようなザンコクなことはいけないから、やめようと話しあっても、またしても同じことが繰り返されたのであった。
 〈浦島太郎といえば、何の裏付けもない民間伝承と思われがちだが、実際にはかなり深い背景が横たわっている。第一、浦島太郎は、正史が認めた実在の人物なのである。「日本書紀」雄略二十二年七月の条に次のようにある。秋七月に、丹波国の余社郡の筒川の人、瑞江浦島子、船に乗って釣りす。遂に大亀を得たり、忽に女に化美る。足に浦島子感じて婦にす。相遂ひて海に入る。(略)〉(本書より)
 玉手箱をあけると中から白い煙が立ちのぼり、アッという間にしらが頭のお爺さんになってしまった。海底と陸との想像を絶する古代史のドラマである。恐ろしくもある。







リンクサイト
サイト限定連載

図書新聞出版
  最新刊
『新宿センチメンタル・ジャーニー』
『山・自然探究――紀行・エッセイ・評論集』
『【新版】クリストとジャンヌ=クロード ライフ=ワークス=プロジェクト』
書店別 週間ベストセラーズ
■東京■東京堂書店様調べ
1位 マチズモを削り取れ
(武田砂鉄)
2位 喫茶店で松本隆さんから聞いたこと
(山下賢二)
3位 古くて素敵なクラシック・レコードたち
(村上春樹)
■新潟■萬松堂様調べ
1位 老いる意味
(森村誠一)
2位 老いの福袋
(樋口恵子)
3位 もうだまされない
新型コロナの大誤解
(西村秀一)

取扱い書店企業概要プライバシーポリシー利用規約