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評者◆添田馨
現代権力論――病原ウイルスとしての「アベ政治」⑰
No.3531 ・ 2022年02月19日
■NHKスペシャル「証言ドキュメント 永田町・権力の興亡 コロナ禍の首相交代劇」(1月16日放映)を視聴して、まっさきにやってきたのは“いったいこれは何なのだ”という戸惑いのいりまじった猜疑の感情だった。
菅義偉から岸田文雄に総理大臣が交代してから半年もたっていないこのタイミングで、直近の首相交代劇の内幕を知る自民党の重鎮をはじめとし、総裁選を戦った対抗候補の議員や他党の代表までをも登場させ、それぞれの証言を編集するかたちで、昨年夏の総理交代劇の真相にせまるという構成だが、私には違和感ばかりがさきだった。 政権中枢の有力者たちをすべて単独取材したことに、世の中では驚きの声も聞かれるようだが、発言内容がほんとうに彼等の本心なのか視聴者側に検証する術がない以上、情報は一方的に送り手側に有利に流されたと考えるしかない。当事者本人が語っているから、それが真実の情報だということには決してならないからだ。 確かなことがひとつだけある。この番組内容の編集権は制作したNHKの側が持っていたであろうことである。ということは、この番組じたいが、NHKによる2021年夏の政権交代劇のストーリー化であり、他局にここまでの取材力をもって番組制作ができるだけの体力がなかった以上、これはNHKだけに許された権力者群像の記述、しかも批判的な検証にいっさい曝されていない一元的歴史化の産物だと断ずるしかあるまい。 安倍晋三にもっとも食いこんだといわれる同局の女性記者Iの名前が、今回も登場していた。だが誤解してならぬのは、取材対象にもっとも肉迫することが、その真実の姿を解き明かすことと必ずしも一致しないことである。今回の番組で明らかにされた事実関係があったことは認めるとしても、しかしその一方で見えなくされた不都合な側面も間違いなくあったように思う。自分に何のメリットもない取材番組に、権力を保持する側の政治家が出演することなど百パーセントあり得ないことだからだ。 (つづく) |
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