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評者◆凪一木
その128 席はあるのか、或いはないのか。
No.3529 ・ 2022年02月05日




■実に下らないやりとりである。そして、それが、このビル管世界、ひいてはサラリーマン世界の下らなさを示していると私は思う。
 席があるのか? つまりはマイ席、「オレの」「私の」机があるのかという問題である。
 ビル管理のような「派遣業」で仕事をしていると、元請けと下請けとの、或いは、正社員と派遣社員との、本社と現場との、その扱いの差に、かなり「持っている側」は気付かず、そのこと自体も含めて頭にくる。その一つが、「自分の机」である。同じ現場にいながら、元請けの者には、正社員の者には「自分の机」があり、下請けの者、派遣社員の者にはないのである。派遣会社であっても、本社の者には「自分の机」が与えられ、現場の者には、「ない」。苦汁を舐めさせられ、靴を踏まれる方は、彼我の差を思い知らされる。これを読むあなたには、机がありますか?
 笑ってしまうのが、我がT工業の本社と現場での待遇の違いだ。
 本社の人間と言ったって、やることは同じで、ルートを巡回でビル管理をしている。「現場の人間」とは、各現場に入って宿直や、日勤のみの勤務などで常駐する。
 まず年間休日の数が違う。本社勤務は多い。また本社勤務は、月に二万円まで、ほぼノータッチの仮払金が出て、領収書さえ集めれば、その金額が出る。現場は、基本的にゼロだ。
 そして退職金規定だ。三年務めた者から支給される。その三年で辞めたとして、本社の人間が会社都合の場合、基本給の〇・二、自己都合の場合は〇・〇八であるが、現場は、それぞれ〇・〇八と〇・〇三である。しかも基本給自体が違う。本社は多い上に上がる。現場は少ない上に、入社時のままである。この格差でもって、最後はどうなるか。五〇年勤務まで本社は退職規定がある。会社都合で一八・〇、自己都合でも一二・〇である。現場は二〇年以上の比率が同じで、五〇年で辞めたとして、会社都合が二・一八(これは本社で一〇年で辞めた人間より少ない)、自己都合は〇・九八である。基本給一三万円であるから、手取りにして一〇万ぐらいであろう。本社勤務は三〇〇万円ぐらいであろうか。
 七年務めて辞めた同僚の沖縄空手が二万円振り込まれたことは前にも書いた。二万円とはこれ如何に。小学生のお年玉かよ。七年といったら、小学三年生の者が、七年後にはもう高校生じゃないか。
 家族のいわゆる「普通失踪」だって、不在者(容易に戻る見込みのない者)につき,その生死が七年間明らかでないとき失踪宣告をすることができる。失踪宣告とは,生死不明の者に対して,法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度だ。その月日の結果が二万円だ。
 さて、異動させようとしている勤務先の、「私の席」の話である。あるのか、ないのか。
 その現場は遠隔監視業務で、巡回も含むM担当(仮に四菱とする)が五人、遠隔の
みのパナソニックが二人だ。その二人のうちの一人が辞めるので、私を異動させるという。これには絡繰りがあり、その話はまたのちに。
 いよいよ毎度おなじみ、嘘つきキツネK部長との「下らない」やり取りだ。
 凪「席があるんですか」K「席はあります」凪「……」(どうせ何か絡繰りがあるのだろう)
 K「席はありますけど、その五人というのは、朝来たら九時くらいに(外に)出てしまって、夕方戻ってきたら帰るという」(ほら、始まった。K得意の言い訳が)
 凪「自分の席というのは、例えば某省は一人ひとり自分の席がありますけど、今の日本橋の現場にはないです。席があるというのは?」
 K「席があるというのはですね、席は全部合わせると、机そのものは……」
 凪「でも、本人の席が無ければ、机がいくつあったって、俺の席はここだ、ってことにはならないでしょう。引き出しに自分の所有物を入れて鍵を掛けてるみたいなことができないわけでしょう。某省は一人ひとり持っているんですよ」
 K「その省は、一人一人はないですよ」
 凪「でも、銭さんはそう言ってます」
 K「あのー。泊まりの人はここ、みたいな席です。まあ、その省の話は抜きにして、席は皆さん、個人の席は持ってます。(念を押すように再び)持ってます」
 凪「机はいくつあるの?」
 K「机はですね。全部で八個くらいあります。それで四菱関係の五人はそれぞれ机を持ってます」
 凪「だから、自分の行くという、四菱じゃない方の机ですよ」
 K「遠隔に泊まる人は、遠隔監視用の席があります」
 凪「それは作業用の席であって、個人の席じゃあないじゃないですか」
 K「個人の席じゃあありません。二人で併用しています」
 凪「じゃあ、それを言えば良いじゃないですか。こっちはそのことを訊いているんだから。四菱も遠隔も関係ないじゃあないですか」K「いや、机は空いているだけです」
 凪「自分の席じゃあないんですよね」K「自分の席じゃないです」
 凪「それを訊いているのに」K「ただ、えー、空いていますので。えー、空いていますので、用意は出来ます。ハイ。今、要らないっていうから使っていないだけで」
 凪「でも自分の席じゃあないじゃないですか」
 K「(怒った口調の大声で)誰も使っていない席があるんです!」
 凪「その五人は自分の席があるんですよね」K「そうです。そうです」
 凪「自分の席がある五人と、自分の席がない我々二人ということですよね」
 K「ま、席があったからって」凪「現場によってですが、席の有る所と無い所があるんですよ」K「席を設けることは出来ます。今まで要らないというから設けていないだけです」
 凪「この四菱の人も、席は要らないと言ったら、無しにするというわけではないですよね」
 K「まあ、余ってる机はあります」(質問に答えろよ)
 ノラリクラリ、いつもこの調子なのである。
 そもそも、このKに対して、ユニオンから団交で話しがあったとおり、「本人同意なく異動させることはしないよね」と再三再四確認をし、「その通りです。無理に異動させることは絶対に無い」とはっきり答えた男なのだ。凪さんは組合員なので全員に異動の話を伝えるのはいいが、凪さんについては組合を通してやるように、労働条件など書面があれば組合にも送るよう話した。その舌の根も乾かないうちに、このK部長から、いきなり「三〇分後に話がある」と現場の私に電話があった。約束を忘れたのか、異動の話をしてきた。すぐに断り、その後に、この顛末なのだ。
 とにかく、私には「席がない」。(建築物管理)







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