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評者◆小嵐九八郎
哀しさを底に引きずる魅力――水上勉著『若狭がたりⅡ――わが「民俗」撰抄』(本体二二〇〇円、アーツアンドクラフツ)
No.3528 ・ 2022年01月29日




■死して一七年ほどか、水上勉の「民俗」についての小説が再び出た。“再び”というのは、この『若狭がたりⅡ――わが「民俗」撰抄』の前の『――Ⅰ』が出版されているからだ。出版社はアーツアンドクラフツ、本体2200円である。
 当方は惚けた老人作家であるが、文学に目覚める年頃の高校時代に直木賞作品である『雁の寺』で、仏教そのものと年老いた僧侶候補の人間の懊悩を教わり、仏教ばかりでなく宗教全般の広さ、狭さ、深さ、浅さを解りかけた気分になったことがある。そういう道を直に潜り、経た水上勉であった。従って“凄い小説”と言うしかない『飢餓海峡』、『五番町夕霧楼』、『越後つついし親不知』などは、仏教の説話は出てこないが、かなり深いところでの考察、思い、時に叫びを感じてしまった経験がある。
 俺が、高校から大学にかけては松本清張と水上勉は両雄で、当方の浅い評では、松本清張は社会派推理の凄みがあったけれど、人間の社会の善悪を基準にするような考えが滲んでいた。ま、説教臭さがあった。水上勉は、驚くようなトリックとかはないけれど、人間の消せない哀しみが漂っていて、読後、エセとしても何となく他者を愛そうという気持ちを俺に湧かせた。
 この『若狭がたりⅡ』は、エッセイなのに、いや、エッセイだからこそか、作りものを一切拒んで匂わせない説き伏せる力と、哀しさを底に引きずる魅力を持っている。
 水上勉の生きた十代から二十代前までの、京都に近いのに生き残りに遅れた若狭の、風土の生生しさ、社会の規範の奇妙な遅れ、滅び寸前の人情の濃さが再発見、いや、発見できる。
 爺や婆を捨てる事実のあまりに切ない話、ああ間引きの因習、老いた人人への冷たい扱いと、今を生きる大老人の俺には、が、ごーんと迫る。福沢諭吉の近現代への迎合の説教も出てきて、その“思想”の中身の浅薄さも分かる。あ、ごめーん、三田の学生諸君。でも、大隈重信より、マシ。







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