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評者◆秋竜山
日本ザンコク風習物語、の巻
No.3526 ・ 2022年01月15日




■千葉公慈『知れば恐ろしい 日本人の風習――「夜に口笛を吹いてはならない」の本当の理由とは――』(河出文庫、本体六六〇円)では、〈てるてる坊主〉について。
 〈子どもの頃、運動会や遠足などの前日には、紙や布を丸めた頭を白木線で包んだてるてる坊主を軒下にぶら下げて、雨が降らぬよう祈ったものである。〉(本書より)
 私のような古い時代の人間には、なつかしいなじみある風習であるが、今の子どもは、おそらく知らないだろう。
 〽てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ…。と、うたったものであった。
 風習というものは、流行している時は、なんとも感じないが、一旦その風習もなくなり、誰も知らなくなると、フッと何かのきっかけで思い出した時、なんとも不思議なものだったと思わざるをえない。〈てるてる坊主〉の風習もそうである。今の子どもたちは知っているよしもなく、説明してあげるしかない。実際につくってみて、軒下へ吊してみると、なんとも不思議な人形であるし、このような風習があったことも奇妙に思えてくるものだ。
 〈てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ いつかの夢の空のように晴れたら金の鈴あげる〉
 〈てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ 私の願いを聞いたなら あまいお酒をたんと飲ましょ〉
 〈てるてる坊主 てる坊主 明日天気にしておくれ それでも曇って泣いたなら あなたの首をチョンと切るぞ〉
 ――「少女の友」大正10年6月。(与田準一編「日本童謡歌集」岩波文庫)(本書より)
 風習というものは、いつの間にか消えてしまう。雨祭りは消えることなく、今でも残っているのだが。むしろ昔よりも今のほうが多いくらいだ。七月の七夕祭りの時は願いごとをこめた短冊に文字を書いて笹にぶらさげたものであった。てるてる坊主の願いごとと違う点は、七夕の願いごとは成就しなかったとしても、短冊をチョンと切りおとすようなことはしなかった。
 私の田舎では、笹と共に短冊を海へ流したものであった。当時は海へ流すことが多くあった。家でかっている猫に子猫が生まれると(数匹)、紙の小箱にいれて親猫の目を盗んで海へ持っていって流してやるのであった。まだ目のあかない子猫である。ミャーミャーと紙の箱の中で泣いた。今でもその時のことを思い出すと、ザンコクなかわいそうなことをしたものだと、これも風習の一つだろうか。海へ流す時、〽親にも子にも化けんな 親にも子にも化けんなと、一緒にいった仲間と大きな声で歌いながら逃げるように立ち去ったのであった。それでも、気になってふりかえらざるをえなかった。子猫の泣き声と共に海へ沈んでいく。そして声がしなくなる。なんというザンコクなことをしたものかと今でも思い出すたびに涙ぐむのである。てるてる坊主の顔には目やハナや口など書かれていない。ノッペラボウであり、どちらが表か裏かはわからない。もちろん子猫たちのように泣き声もたてない。しかし、ハサミで首をちょんぎるということは、あまりにもザンコクであった。たとえ人形としてもだ。







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