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評者◆凪一木
その124 二〇二一年の都はるみ事件
No.3525 ・ 2022年01月01日




■不正のオンパレードだ。警察署で、前年に退職した人物のビル管(建築物環境衛生管理技術者)の名前が残っていることは既に書いた。
 月に一五回しか「日勤」勤務していないのに、それでOKという現場(病院)がある。どういう絡繰りかと言うと、二重帳簿を作っている。T工業に提出する勤務表には、二〇日勤務となっていて、実際は一五日勤務であることを知っているK部長は、そのことを暗黙に了解し、見逃している。病院自体もまた、そうなのだ。
 同じように、夕方五時から九時までしかない勤務のお寺もある。普通に月給が出るのだ。それは、マーシーが前にいた大手の会社の現場である。
 クンクンクン。この話をどこまでしたらいいのであろうか。八時半上司と同じSビルサービス所属で、京橋の巨大ビルに勤務する所長である。彼は、銭さんの半分近い約五〇の資格を持つ男であるが、汚水槽(便などを溜める水槽)を泳ぐ男としても有名で、少なくともヤバいエロ男であることだけは確かなのだ。受付の前を通るたびに、席に着く女性に近づき、「クンクンクン。イイ匂いだなあ」と鼻を利かせ、気持ち悪がられている。それだけなら、それはただの気持ちの悪い男だ。だがクンクンクン男は、犯罪に手を染めている。
 私の現場に来て、すぐに辞めた元印刷屋の社長だった適当男の話である。いや、実は、この話は、同じ現場だった元私の同僚、スーさんとKさん(元銀行マン)からも聴いている。
 そのときは、「見張り」として元印刷屋が更衣室の前で待たされていた。クンクンクン男から「室内の設備を点検してくるから、前で見張っていてくれ」と言われて、見張りをする元印刷屋。なかなか出てこないから、中をのぞくと、そのときは、女子社員のロッカーを開けて、ハイヒールを自分の股間に、しかもズボンを脱いで「当て」ている(接触させている)。驚いて、「何してるんですか」「誰にも言うなよ」。
 この辺で止めて、本題に入るが、我が社のK部長である。その日の我々ユニオンとSビルサービスの団体交渉について、当日、T工業の者が同席する予定ではもちろんなかった。ユニオンからは、連絡もしていない。したがって、日程や時間の情報をどうやって知ったのかもわからないが、K部長はエレベーター前に立っていたのだ。
 ユニオン書記の人に「どうしてここにいるのですか?」と聞かれる。Kはまともな受け答えができず、「私は一言もしゃべりませんから、隅っこの方で見ているだけですから、同席させてください」と言う。「T工業との話ではないので連絡もしていないはずです」。そう確認したうえで、「見ているだけなら同席も別に構わない」と、了承した。
 K部長も、まさか直前のその言葉を忘れたわけではないでしょう。ところが、いったい「あれはなんだ。スーパーマンか」という出来事が起きるのである。K部長は、隅っこどころかド真ん中に座って、Sビルサービスに対してパフォーマンスをする。私に向かって、陰であれほど八時半の男の悪評と、自身の悪感情を口にしているにもかかわらず、Sビルサービスの上層部を前に、八時半を弁護し、私を糾弾するのであった。Kの本性がむき出しになったわけだ。一言もしゃべらないどころか、的はずれな自分の持論を、大声で展開した。ああいうお茶ラケは不要だ。時間の無駄であり、余興としてもつまらない。Kはいったい何をしにやってきたのであろうか。邪魔をしにきたのか。時間の浪費をさせにきたのか。下請けが元請けに対してアピールするサラリーマンのさもしい根性なのであろうか。
 一九八四年の大晦日一二月三一日「NHK紅白歌合戦」で、「美空事件」というものが起きた。総合司会を務めていたのは生方恵一である。この日を最後に引退を表明し、ラストステージを務めた都はるみに対し、もう一曲アンコールをお願いする。その役目が、白組司会で、三〇〇万部突破のベストセラー(二年前に出した『気くばりのすすめ』講談社)やNHKの番組(「クイズ面白ゼミナール」)でも人気の鈴木健二であった。この男がろくでもないことをする。「私に一分間だけ時間をください」と都はるみに駆け寄り、茶番劇を演じるのである。この滑稽で、余計で、つまらなすぎる演出に、呆れたせいもあり、また白けたせいもあるだろう。総合司会の生方は、「都はるみ」の名を、NHKとは過去に何度か揉め、特にこの「紅白歌合戦」をめぐってトラブルとなっていた、大御所中の大御所「美空ひばり」と間違えてしまう。歌い終えた都はるみに対し生方は、こう言ってのける。
 「もっともっと、沢山の拍手を、美空」。ミソラで絶句してしまう。気を取り直して「都さんに、お送りしたいところですが、何ぶん限られた時間です。審査の得点の集計に入りたいと思います」と締めた。
 私もまた絶句した。当時、被差別部落で知られる大阪の東住吉区矢田という住所のアパートで大晦日、一人寂しく一四インチTVを見ていた。
 あの日以来の、約四〇年ぶりの絶句である。
 このK部長は、そもそもヤバい男なのだ。前にも書いたがウソ付きである。山のようにあるが、たとえば、お金をごまかす。弟が東大卒業の秀才がいた。現場を離れたくなかった。だが「お金に釣られました」と二万五〇〇〇円アップで手を打つ。出勤初日の朝に、Kが現場にやってくる。「ごめん、ごめん。二万五〇〇〇円は無理で、二万にしてくれ」。しぶしぶ了承する。しばらくして振り込まれた金額が一万五〇〇〇円だった。抗議したが、「ごめん、ごめん。二万は無理で、一万五〇〇〇円にしてくれ」。
 秀才は、さっさと退職した。
 マーシーが辞める意思を示したときである。K部長はすっ飛んできて、フェラーリに、次の責任者(副所長)をお願いした。
 このときの私宛のフェラーリのラインである。
 〈K部長から次の責任者に(元電気屋の)Iさんか僕(フェラーリ)かのどちらかで考えているという勝手な相談を受けましたが、僕も異動できないのであれば辞めますと伝えました。〉
 このときのK部長の様子は、断られて、その場で頭を抱えたというのだ。「じゃあ、Iさんにお願いするしかないか」。元電気屋の前にまずフェラーリにお願いしたふりをした小芝居だ。その二日前の時点で、既にIさんが、「責任者にどうか」と言われ、承諾していた。頭を抱える演技は、念の入った茶番であった。
 おいおいおい。田舎の小学校の学芸会かよ。
(建築物管理)







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