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評者◆小嵐九八郎
熱さ、ゆとり、溜息がたっぷり――パリュスあや子著『燃える息』(本体一五五〇円、講談社)
No.3525 ・ 2022年01月01日




■じっくりと長編小説を秋の夜長に読むのも楽しいが、老いたせいか短編小説の味が解りかけてきて、気分的にも楽で面白さがごーんとやってくるようになった。全国紙のあるカルチャーセンターでも、だから、伊集院静さんの『三年坂』とか、時代小説では池波正太郎の『殺しの掟』などの短編テキストを使う。それぞれ、中身に、切羽詰まったテーマ、思い、素材の料理の苦労した上での工夫があり、駄目作家としては頭を深く、深く垂れてしまう。
 ただ、俺だけではないだろうが、新人が新人賞をもらいたての時の小説の注文依頼は、三十枚から六十枚ぐらいまでの短編小説で、いつも起承転結と、枚数の不足に苦しんでいた。ゆえに、短編小説に熱を上げ、こだわる小説家には畏怖を思い続けている。思えば、芥川龍之介は短編小説の大いなる名手、数少ない長編小説は、う、う、うう、である。
 という思いで、フランスに在住という、パリュスあや子さんの『燃える息』(本体1550円、講談社)を手に取った。処女小説であろう、『小説現代』の新人賞作品の『隣人X』の、外人、異邦人の書き方が“差別糾弾”ではない、ゆとりのたっぷりある連帯で書かれていて、強く印象に残っていたからだ。
 六つ――なんて呼び方があるのだろうか、失礼します――の短編集である。いずれも、熱さ、ゆとり、溜息が、たっぷり詰まっていて、そろそろ惚けが始まっている俺も、かなり、背筋を伸ばし、「あ」という間もなく読み終えた。
 冒頭の短編「呼ぶ骨」で、小さい犯罪の“置き引き”本人の切ない心情があり、しゅん。俺は、小学校二年から三年にかけ、愛する母の小さな引き出しから、五円を、心を鬼にしてくすねていたが、この小説にはもっとつらい胸の中がある。
 要らしい「燃える息」はガソリンの匂いフェチで、うーん。「鈴木さんのこだわり」はかなり凄い短編である。半ぼけの母との交わりが秀逸。何より、ラスト九行の文が、リアル、思い、感情が煮つまっていて、降参。







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