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評者◆秋竜山
針の怖さは本数ではない、の巻
No.3523 ・ 2021年12月11日




■一本の針と、千本の針と、どっちが怖いのか。私が子供の頃、針仕事をしていた母が、大さわぎしだした。使っていた一本針をなくしてしまったというのであった。それは大変と、家族総出でそのまわりをさがした。針一本ぐらいなくしたとしてもどーってことはないだろう。と、いうわけにはいかない。母は、みんなから口々にせめたてられた。どーしてなくしたんだと!! と、いうことであったが、わざとなくしたものではない。見つかるまでさがすんだと、さがしにさがしたが、見つからなかった。これだけさがしたのに見つからないということは、ホントーになくしたのか!! と、同じことを何度もみんなからいわれたが、さがす以外になかったのであった。「ホントーなの、嘘じゃないの?」と、みんなからいわれて、「あたしが嘘つくわけがないだろ」と、今度は母がおこり出してしまった。
 千葉公慈『知れば恐ろしい 日本人の風習――「夜に口笛を吹いてはならない」の本当の理由とは――』(河出文庫、本体六六〇円)では、
 〈指切りげんまん 江戸の遊郭で流行った愛の誓い。〉〈大切な約束を守るために、あなたは誓いの証しとして何を求めるだろうか? 子どもの頃、互いに小指どうしを引っかけて振りながら、こんな言葉をふたりで言わなかっただろうか。
 指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った!
 江戸時代の遊びの様子を描いた史料として知られる、万亭応賀と静斎英一の「幼稚遊び昔雛形」(1844年)には、天保年間の子どもの遊びとして75種類の遊びと、そのわらべ唄を紹介している。(略)指切りげんまんが紹介されているが、さらに時代を遡れば江戸の遊郭に由来するという。かつて遊女と客が、その愛に偽りが無く不変であることを誓う証として、実際に小指を切断して贈っていた。おそらく、当初は限定的な流行だったと推測されるが、やがてこれが「約束を守る」という意味に変化して大衆にもひろまり、子供たちの遊びへと発展したと考えられている。〉(本書より)
 私など子供の頃はよくやった遊びであった。遊びであるから、やったあとすぐ忘れてしまった。
 針といえば、「針ほど恐ろしいものはない」と、よく母などから聞かされたものであった。針を体内にいれると、その針は血流にのって体内をめぐりまわるという。そういってから、母が針仕事をしていてなくした一本の針と、指きりげんまんの千本の針と、どちらがおそろしいのか。おそろしさにおいてはどっちも同じだろう。いくらさがしても見つからない。だからといってあきらめてしまうわけにはいかないのである。針は何かの拍子に体内にはいり込むこともあり得る。結局は見つけることができなかったが、はじめの内は大さわぎしたが、いつしか忘れてしまったものであった。指切りげんまんの千本の針と、母がなくした一本の針と、どちらが怖いのか。針の怖さは本数ではないということだ。
 指切りげんまん嘘ついたら針一本のーます、指切った!と、したら、どーだろうか。やっぱり、こわい。







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