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評者◆伊達政保
スポーツを利用した資本とナショナリズムの祭典――今回のオリンピックの最大の収穫は2枚組LPレコード『円谷幸吉と人間』
No.3520 ・ 2021年11月20日




■コロナ禍での東京オリンピック・パラリンピックは多くの延期、中止、反対の声が上がる中、開催が強行され終了した。危惧したとおり期間中から感染爆発が起き、医療崩壊が引き起こされた。同時にオリンピックの欺臓性も暴露されていった。当初の「復興五輪」などは忘れ去られ、後付けの「コロナに打ち勝った証し」も緊急事態宣言下の開催で無意味となった。オリンピックは「平和の祭典」ではなく、スポーツを利用した資本とナショナリズムの祭典だったのだ。IOCの金権・利権にまみれた権力主義的体質とバッハ会長などの特権階級的振る舞いがそれを体現していた。
 また日本政府、東京都、JOC、組織委員会による利権と政治利用は明らかであった。当初7千億円と見積もられた予算は結果的には4兆円ほどに膨れ上がったと見られている。原因の一つは、ゼネコンや電通などの広告代理店が莫大な中間搾取を行い、それが各組織・団体の利権となったからだ。例えば一人一日当たりの計上人件費2万7千円が実は9千円しか支払われず差額は消えてしまった。すなわち経費の6割が利権となったのだ。そのほとんどが税金である。一方オリンピックによる支持率浮上により選挙を行おうとした菅政権の思惑は外れ、自民党総裁選そして総選挙へと突入することになった。
 そうした東京オリンピックに対し多くの抗議行動やデモが取り組まれたが、開会式当日には「叛五輪音楽祭・東京五輪獣‐太陽肛門スパパーン2枚組LPレコード『円谷幸吉と人間』発売記念」ライブが開催された。出演者はPANTA、灰野敬二、太陽肛門スパパーンの演奏、鵜飼哲(一橋大学名誉教授)と竹田賢一の対談など超豪華版。東京オリンピック阻止! オリンピック廃止! を訴えた。
 そして逆説的にだが今回のオリンピックの最大の収穫はこの2枚組LP『円谷幸吉と人間』だろう。64年の東京オリンピックのマラソンで銅メダルを獲得し、68年のメキシコオリンピックでもメダルを期待されていた円谷幸吉は、68年1月に自衛隊官舎で自殺した。「父上様母上様、三日とろろ美味しうございました」と始まる遺書には「幸吉はもうすっかり疲れ切ってしまって走れません」と書かれてあった。オリンピックの犠牲者であり、殺されたと言っても過言ではない。彼の一生を題材として、歌謡プログレ・フリージャズ・ファンクバンドと言われる太陽肛門スパパーンが、幅広い持ちネタ(コルトレーンのジャイアント・ステップスも)と多彩なバンドサウンドを使った大組曲として製作したのだ。中の一曲「東京おらんピック」は別ミックスでシングルカットされている。必聴である。







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