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評者◆小嵐九八郎
やっぱり大文豪なのであった――夏目漱石著『道草』(本体四六〇円、新潮文庫)
No.3520 ・ 2021年11月20日




■ある全国紙のカルチャーセンターの講座で、テキストの“私小説の勉強”に、夏目漱石の『道草』を使った。御存知とは思うが、もう漱石の晩年、一九一四(大正三)年頃、四十七歳前後、『こゝろ』のすぐ後ぐらいに出した小説だ。当方は、高校三年生の時に一度読み、「はあ、文豪も幼い時は辛かったんだろうな。そのせいか、中年になってもなお親族とか妻の悪口を書いてるものな」と、あの、楽しく面白い『坊っちゃん』、恋と青春を旅する『三四郎』、友人を恋敵として追い抜くだけなのにそのエゴイズムに悩んで追いに追う『こゝろ』とはまるで別な世俗的な話に立ち往生した。
 それから六十年が経ち、今回は、新潮文庫(本体四六〇円)をテキストにした。解説が、俺の惚けかかった記憶でいくと、柄谷行人氏のデビュウは「群像」の評論賞で、テーマはたしか“漱石と近代”だったような気がするし、当方が現存する思想家で一番信頼しているのが柄谷行人氏なので、決めた。
 大老人になって再読すると、うぅーっと、唸ってしまうけれど、養父母、親族への底知れない憎しみ、妻への、ワイフ・ハラスメントという新語が出てきそうな悪口、しかし、おのれへの容赦ない糾弾も出てきて、皺だらけの顔が膨れ上がってしまった。
 ここまで書くか? 人間の日常生活を含めての我執の醜さを、とか、自殺未遂までしたことのある漱石の妻はどうなるとかを考えてしまう。凄まじい勇気と、真正直な思いがあり、やっぱり大文豪なのであった。
 が、そういえば、青春小説と映った『三四郎』も、『それから』も、『こゝろ』も、内容において、どうもテーマが並行して捩れるような……。だからこそ、また、深く……。
 この疑問に、解説で柄谷氏が、漱石が幼少期を引きずっていることを分析しながら「ダブル・バインド」と答えを出している。「バインド」は“縛り”だろう。もっと知りたい人は、漱石に再び接近して人生を考えるように、直に読まれると良い……かも。







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