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評者◆粥川準二
新型コロナウイルス感染者の激減にさいして考えたこと――激減の理由についての専門家たちの見解に、決め手はない
No.3519 ・ 2021年11月13日




■本稿を執筆している一〇月二八日時点で、新型コロナウイルス感染症の感染者(新規陽性者)の数は減少し続けている。九月三〇日に四度目の緊急事態宣言が解除されてから一カ月近く経っているにもかかわらず、である。
 また、すでに一〇月二六日には、二回のワクチン接種を完了した人数が八八七九万七九〇九人、つまり人口の七〇・一パーセントに達した。
 『神戸新聞NEXT』は一〇月一七日の時点で、これまでの緊急事態宣言の解除後に感染者数がどのように推移したかを、グラフを重ねて示した。それによると「今年春と夏の宣言解除後は2週間程度で増加に転じたが、今回は減少傾向が続いている」ことが一目瞭然にわかる(井川朋宏「急減の第5波 解除後半月、感染者減り続け ワクチン効果か、注目の事態に」、同紙、一〇月一七日)。
 『時事ドットコムニュース』が掲載したグラフも、きわめて重要なことを明瞭に示している。七月二三日にオリンピックが始まり、九月五日にパラリンピックが終わったこと、オリンピック閉幕とパラリンピック開幕との間である八月二〇日に感染者数が過去最多を記録したこと、その間ワクチンの接種回数が増え続け、九月一三日には国民の半数がワクチン接種を完了し、一〇月四日には六割が完了したこと、などがひと目でわかる(無署名「感染者数なぜ急減? ワクチン効果、行動変化など‐専門家「複合的要因」」、同紙、一〇月一六日)。
 そして前述のように、各種データサイトなどによれば、一〇月二六日に二回の接種を完了した人が人口の七割を超えた。いわゆる集団免疫の達成に必要とされる数字に達したことになる。若い世代の接種率がやや低いことが気になるが、日本はひとまず、この目標を達成したことになる(この「七割」という目安が、デルタ株など感染力の強いウイルスに対しても有効なのかを、筆者は知りたい)。
 なおデータサイト「データで見る私たちの世界(Our World in Date)」によれば、日本の接種率はイギリスやアメリカなどをおさえて一一位であり、世界的に見て下位ではない(一〇月二六日時点)。またこのサイトの「コロナウイルスワクチン」のページは冒頭で、世界的な状況を端的にこうまとめている。
 「世界人口の四八・九パーセントが少なくとも一回のCOVID‐19ワクチン接種を受けている。/全世界で六九億二〇〇〇万回の接種が行われ、現在、毎日二四九三万回の接種が行われている。/低所得国では、少なくとも一回の接種を受けた人は三・一パーセントに過ぎない」
 現在、三回目のワクチン接種、いわゆるブースター接種の必要性や有効性が議論されているが、高所得国がブースター接種を推進すれば、ほかの国々にどのような影響が起こりうるのかを、われわれは深く想像すべきだろう。日本は幸いなことに、もともと感染者がきわめて少ないことも考慮すべきだ。
 一方、前述『時事』のグラフを見ればすぐわかるように、感染者数は、国民の半数がワクチン接種を完了した九月五日以前から急激に減っている。感染者激減の理由を、ワクチンだけに求めるのは難しい。むしろ、ワクチンや治療薬に頼らない「非医薬品介入」の可能性も垣間見えている(もちろん、医薬品と非医薬品、どちらかだけが重要だという意味ではない)。
 多くの記事が激減の理由について専門家たちの見解を紹介しているが、決め手はない。たとえば『東京新聞』は、①危機感で各人が感染対策を心がけた、②ワクチンを打っていない若い世代が「夜の街」を避けた、③ワクチン接種率が向上した、④院内の感染防止策が徹底され高齢者が守られた、⑤気温の変化で換気が進んだ、という五つの仮説を列挙している(無署名「なぜ感染者数は急減したのか? 再拡大防止に不可欠だが…専門家が挙げる5つの仮説でも解明しきれず」、同紙、一〇月四日)。「5つは急減要因として考え得るが決定打とまでは言えない」と同紙は書く。
 激減の理由は一つではなく、複合的なのかもしれない。だとしたら、この激減はただの「偶然」ともみなせる。
 ところで筆者はこのパンデミックが始まって以来、前述の「データで見る~」をはじめとして、『東洋経済オンライン』の「新型コロナウイルス 国内の感染状況」や『フィナンシャルタイムズ』の「コロナウイルスの追跡調査‥あなたの国と比較してみよう(Coronavirus tracked:see how your country compares)」など、各種データサイトを毎日のように巡回している(東日本大震災・原発事故のときもこうしたデータサイトはあったが、充実していたという印象は薄い)。前述の『神戸』や『時事』の記事の秀逸なグラフは、こうしたデータサイトへの対抗意識もあったのだろうか? そうではないとしても歓迎だ。
 一方、筆者はときどき、日本のことが海外でどのように紹介されているのかが気になるのだが、海外メディアのピント外れっぷりにあきれることもある。たとえば英紙『ガーディアン(The Gurdian)』は「崖っぷちからの復活‥日本がCOVIDの意外な成功例になるまで(Back from the brink:how Japan became a surprise Covid success story)」という記事で日本の状況を報じたが、タイトルからして的外れである(ジャスティン・マッカリー、同紙、一〇月一三日)。イギリスに比べれば、日本の感染者数はずっと低いままであり、「崖っぷち」などではない。「意外な」とは失礼ではないか。「諸外国では室内などでのマスク着用が義務づけられていないが、多くの日本人はいまだにマスクなしで外出することに身震いしている」と書いているが、われわれは「身震い」などしていない。花粉症のためマスク着用に慣れており、病気の予防についての関心が概して高いだけである。この記者はどうしても、日本人を欧米人よりも劣った者とみなしたいのだろうか?
 日本のジャーナリズムやアカデミズムでも欧米崇拝は根深いが、そろそろ卒業したほうがいい。
(叡啓大学准教授・社会学・生命倫理)







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