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評者◆秋竜山
マンガに描けない驚き、の巻
No.3518 ・ 2021年11月06日




■ケータイ電話によって、便利な世の中になったものだと思った。考えられないことが起こるものだとも思った。電話器をポケットにいれるということを想像すらできなかった。想像することを仕事にしているマンガ家であるはずなのに、まさに、マンガに描けない驚きであった。ポケットの中で電話のベルがなるなんて、考えられなかった。私はその昔の若い頃、地方の郵便局で、電話交換手をさせられていたが、その時もそんなことを夢にも思わなかった。昔の外国マンガに、沙漠のまんなかにいるヒトに、遠くの街から、長い電話のコードをひいてきて、「お電話ですよ」と、いうのがあった。今ならポケットに電話機がある。
 山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書、本体七五〇円)では、
 〈人間とは、自分の人生が肯定されたり承認されたりしないと幸福感を味わえない存在だという建前を超えた事実があります。つまり前者の積極的な幸福が、人間の幸福感には必要なのです。〉〈2011年の東日本大震災後の内閣府の調査でも、「震災後に絆が強まった」と回答した人ほど幸福感が高くなっているというデータが見られました。不幸を逃れている、イコール幸福である、という認識です。〉〈国連による世界幸福度ランキングの日本の順位は62位(2020年)(略)〉(本書より)
 そして、
 〈私たちは人生において、「これを買うと幸福」になれるという消費の物語を求めているともいえるのです。〉(本書より)
 幸福というものを買い求めることができるのです。いくらの値段がするものか。お金の時代である。ケータイを持って幸福を味わっている。安いか高いか。お棺の中へ生前に愛用していたケータイを、家族写真などと一緒にしのばせてあげる。「あの世へいっても使ってください」と、いう心くばりだろう。いきなり、あの世からケータイで電話されてきたら、どうしましょう。「どう元気!?」なんて、いって。たとえば、女房がケータイで追いかけてくる。「あなた今、どこにいるのよ」。女房に知られたくない場所だったりする。
 〈昭和の時代においては、「豊かな家庭生活を作ればハッピーになる」という筋書きの中にほとんどの人が存在してきました。つまり、豊かな生活が承認の源であり、家庭の豊かさに必要なものを揃えていくのが幸せである、という物語です。これは近代社会の成長期に、あらゆる国の普遍的な物語になりました。日本に限らず欧米も東南アジア諸国もそれぞれ時期は異なりますが、「豊かな家族、豊かな家族生活を作りましょう」という志向が原動力となって、消費が拡大しました。〉(本書より)
 あの時代の思いこみにも笑ってしまう。「うちは中流家庭です」と、みんないい切った。「隣の家庭がうらやましい」どころか、うちも中流生活をしている。これは、思いこみである。今ではケータイを持っているから中流生活者であるとはいわないだろう。幸福感をもつ人もいないだろう。当たり前である。当たり前の幸福感とでもいいましょうか。







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