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評者◆秋竜山
分かりそうで、分からない、の巻
No.3516 ・ 2021年10月23日




■若い頃、ある先輩漫画家からこんなことを聞いたことがあった。それは、新聞の四コマ漫画についてであった。新聞の四コマ漫画というと毎日連載されていく。毎日続けるということは至難のわざである。今日は気がのらないから休もうなんてことはできない。たとえ病気で四〇度の高熱があろうとも、そのスペースはうめなければならない。読者にとっては、そんなことは関係ないことである。大変な仕事であることは間違いない。そして、その漫画が面白いか、面白くないかが大問題である。時折、いくら読んでも意味がわからないのがあったりする。その、意味のわからないマンガについてである。大ベテランの先輩漫画家によるアドバイスである。四コマの連載物を長く続けるには一つのコツがある。それは、一週間の内に一本か二本、三本となると問題になるが、二本ぐらい、ちょっとわかりにくい内容のものをわざとさし入れておく。読者はなんだろうと何度も見るが、やはりわからない。そこで読者は考える。いくらなんでも新聞にのっている漫画だから、みんなわかるだろう、わからないのは自分だけではなかろうか。この、わからないというのがミソである。つまり、「とっかかり」であるというのだ。このことで読者は、この連載物の漫画について忘れないというのである。わかる漫画というのがある。その、わかるというのは、わかるということで大切であるけど,とっかかりがない。だから、読んでもすぐ忘れてしまう。忘れられない漫画をわざと入れておくということだ。それが、連載の長持ちのヒケツということである。そうは、いうものの、なかなかそのようなことは操作できるものではない。毎日、必死になって、わかって面白い漫画を描こうと努力していることになるのである。
 佐々木健一『「面白い」のつくりかた』(新潮新書、本体七六〇円)では、
 〈そもそも、一〇〇万人単位という視聴者に情報を届けるテレビというメディアは、基本的に「分かりやすいこと」が求められます。大衆メディアにおいて、ただ単に「分からない」ものは「面白くない」と見なされ、チャンネルを変えられてしまうでしょう。ですから、一見「分かりそう」な対象は、テレビと非常に相性がいいのです。老若男女あらゆる世代に親しまれてきた大相撲、そして登場人物の貴乃花親方は“平成の大横綱”と呼ばれて誰もが知る存在です。これら「分かりそう」な要素が、「いつまで経っても分からない」という各界の闇と組み合わさり、あそこまで尾を引いたのではないかと思います。この「分かりそうで、分からない」という二律背反が持つ強力な求心力は、意外と見過ごされているように思います。(略)また、「分かった途端に興味がなくなる」ということもよくあります。〉(本書より)
 交際している男女。よくある話であるが、はじめの内は夢中にさせられる。それはお互いに相手をよく知らないからである。しかし、何度か付き合っている内に熱もさめるというものだ。「何だ、こんな女であったのか」「やだ、こんな男であったのか」。それでおしまいとなる。フランスのコントの笑いのような、このような男女関係がいっぱいある。それに気づかず結婚する。結果は、ちょっと遅れただけのことだ。一生気づかない幸福者もいたりするから、分からないものである。







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