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評者◆秋竜山
タイトルは小声で、の巻
No.3515 ・ 2021年10月16日




■江戸川柳に「そっといふことでも無いにそっといひ」と、いうのがある。二人で立ち話をしている。急に声をひそめて、そっという。その声にあわせるようにして、小さな声で、「へーそなの、しらなかった」など、耳元で驚いてみせる。そして、元の声になって話し出す。人に知らせたくない内容だから、そっと小声でいうのである。実は、その声こそが肝心の聞いてほしい内容であるのだ。大きな声よりも小さな声のほうが興味をしめすものである。
 興味をしめさせることにおいて、書店に並んでいる新刊本などがいい例だろう。沢山の本が並んでいる。そんな本の中で、客に手に取ってもらうためには、特別な本として興味を持たさなければならない。客は本を目でみるというより、声で聞くこととなる。本のタイトルによって、その本の内容をわからせることになる。だから、タイトルを客にわからせるためにも、あくまでもタイトルは小声でということになる。客が手にとってくれたらしめたものである。パラパラとページをめくる。そして、買おうか買うまいかを決める。
 小山慶太『〈どんでん返し〉の科学史――蘇る錬金術、天動説、自然発生説』(中公新書、本体八二〇円)では、
 〈ミステリー小説や掌編小説の醍醐味、魅力のひとつに、結末に設定された「どんでん返し」がある。予想もしなかったストーリー展開のあざやかさに舌を巻き、「うーん、やられた」と唸りながら本を閉じたときの読後感は、なんともいえない。一方、創作家の立場に立てば、いかに巧みに、読者に思いもよらなかった驚きを与えられるかが、腕の見せどころとなろう。物語のこうした楽しみ方をヒントに、科学の歴史をたどってみると、いままであまり気がつかなかった、あるいは意識してこなかった面白さが浮かんでくるのではないかと考え、筆を執ったのが本書である。とはいっても、異説、珍説を述べたて、奇をてらった外伝を綴ろうというわけではない。そうではなく、少しだけ視点を変えてみると、歴史の捉え方にも「どんでん返し」が起きるということを示したかったのである。その意味で、視点を変えるという試み自体が、科学史の編み方としての「どんでん返し」になったのではないかと思っている。〉(本書―あとがきより)
 本書のタイトル「どんでん返し」が功を奏したと思う。意外性という意味では「そっといふ」という、聞いてほしいという点で声をひそめたことが成功しているのである。「どんでん返し」という文句だけで面白さが伝わってくる。ヒトは「どんでん返し」を喜ぶものである。起承転結の結の部分で「どんでん返し」をされたら手を打って喜ぶものである。「どんでん返し」で、内容のすべてをいいつくしているようなものである。
 〈ところが、科学の場合には、ひとつの問題が解決しても、それからまた、新たな問題が頭をもたげてくるという連鎖がつづくことになる。(略)したがって、「どんでん返し」のドラマは幾度でも繰り返されるのである。そのぶん、科学の歴史は面白いといえる。〉(本書より)
 科学といえば小学生の教科書の発明王エジソンの名前が出るくらいのものである。隣の爺さんが、家に裸電球がついたのに、タバコのキセルで火をつけようとした。これも科学のうちにはいるが、つかなかった。もし、ついたら、「どんでん返し」の科学ということになるだろう。







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