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評者◆秋竜山
いい枝ぶりの木は……、の巻
No.3514 ・ 2021年10月09日




■趣味どうし、というのがある。盆栽がそれである。はちが小さければ小さいほど価値があったりする。趣味のない人はそれがわからない人だ。合点がいかないということになる。せっかく大きな松の木があるのに、わざわざ小さくして、よろこんでいる気がしれないという。たのしいということは理くつがない。わかる人にはわかり、わからない人にはわからないということだ。「盆栽」好きの共通の言葉に、「いい枝ぶりですねェ」がある。この言葉さえしっていれば、大いに趣味を語りあうことができる。相手の盆栽を「いい枝ぶりですねェ」と、いえば、ほめ言葉として相手をよろこばせる。また相手にいわれれば、こっちもうれしくなるものである。「まさに、本物そっくりですね」なんて、のもある。よく考えてみると、変てこな趣味である。趣味というものは、お互いにほめあうことにある。それによって親交が深まることになる。そのような小さいはちをいっぱい並べたてて悦に入っていると、女房が、「まったく気がしれない」と、ぼやく。亭主が趣味人なら女房はぼやき人である。
 山田昌弘『新型格差社会』(朝日新書、本体七五〇円)では、
 〈このような背景から、日本の自殺者数は1998年に前年の2万4000人から一気に3万2000人に激増後、2011年まで毎年3万人を越える状況が続きます。これは、アジア通貨危機からリーマン・ショック(2008年)に至る経済危機を原因としてリストラや会社倒産などによって、自分の収入で家族を養っていけなくなった中年男性の絶望の数字です。その後、景気の回復や厚労省を中心とする自殺対策が功を奏したこともあり、2010年から19年にかけて自殺者数は徐々に減少していきました。特に中高年男性の自殺者は大きく減りました。こうした状況を大きく変えたのが、新型コロナウイルスのパンデミックでした。2020年7月頃から、コロナ禍によって再び自殺者の数が増加に転じている。〉(本書より)
 「いい枝ぶりだなァ」と、一本の木を見上げて男がつぶやいた。そして、その男は毎日のようにその場所へやってきては、その木の下から見上げてしみじみとした口調でつぶやいた。ある家の塀より外へはみ出している庭木であった。その様子は、それまでは只それだけのえたいのしれない男と木の枝との関係であったのであるが、そのことを家のものが気づいた時からドタバタ喜劇がはじまったのである。その家の親父は最初はふしんに思ってはいたが、ひんぱんに男があらわれるのに、これは大変なことであると気が変わった。これは、あぶない、と思った。自分で見ても、「いい枝ぶりだなァ」と、思うようになった。そして危険であると思った。このまま、ほっておいたら、この男に枝ぶりのいい枝にヒモをかけて、首でもつられてしまうのではなかろうか。昔から、いい枝ぶりということは、その枝で首をつるという意味があった。そういえば、もう一本の枝ぶりのいい木がある。門かぶりの松の木である。その松の木で首でもつられたら家の出入りができなくなってしまう。それには、首をつられる前に、その枝を切り落としてしまわなくては。そして、枝は切られた。その後、どうなったかというと、切られた枝の木の下へ男はこなくなった。親父は思った。はたして、あの枝は切ってよかったのか悪かったのか。「いい枝ぶりだったのになァ……」。







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