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評者◆秋竜山
俳人たちの耳をすます姿、の巻
No.3513 ・ 2021年09月25日




■今週も秋は続く。
 「秋だなァ……」は、「虫だなァ」と同意語。
 俳人たちの耳をすます姿。
 復本一郎監修『俳句の鳥・虫図鑑――季語になる折々の鳥と虫204種』(成美堂出版、本体一五〇〇円)では、先週の「ハクション」などと、くしゃみをしようものなら、うるさいというかわりに、いっせいに「シーッ」と、いう声が発せられる。
 虫の鳴く声をさえぎられるからである。
 この雰囲気に似た光景が街中にあった。今は、どこにも無い。昔の話。
 喫茶店の時代があった。
 東京などのにぎやかな街などでは、五、六軒ごしに喫茶店があった。どこの店もいっぱいだった。
 そこに、つどうのが音楽喫茶であるから音楽好きであった。クラッシック音楽が専門であり、そこには虫の鳴く声に眼などをつむって深く聞きいっていた。店内は明かりをおとして、うす暗かった。音楽には、そんな店内の暗さが必要であった。
 気がおちつくからである。
 みんな、クラッシック音楽という好きなものにはたまらない、そーでもないものにはそーでもない音楽芸術であった。
 秋の夕暮どきの虫の音に聞きいっているものに共通点をみいだすことができる。
 私は好きでもキライでもなく、つかれた時など、コーヒーなどすすりながら椅子にもたれていた。マンガのアイデアを考えるのにもよいということから一日の内かなりの時間、椅子で冷めたコーヒーを前にして、いねむりをしていたのであった。
 冷めたコーヒーには、それなりの理由があった。温かい内にのめばおいしくていいのはわかっているが、コーヒーをのんでしまっては店を出なければならないから、冷えたコーヒーをカップの底のほうに残しておいて、店員に「まだ残ってます。まだのんでます」という証拠品のようなものであった。
 店内ではクラッシック音楽に聞きいっているものであることから、そんな時「ハクション」と、やらかしたことには、いっせいに、「シーッ」と、いう声で集中こーげきされる。秋の虫の声に耳をすませているのに、まったく同じであった。
 轡虫夜討も来べき夜なる哉
――正岡子規
がちやがちやや月光掬ふ芝の上
――渡辺水巴
(本書より)
 よく考えてみると、あの音楽喫茶店の時代、さまざまな喫茶店があった。
 あの時代に、「虫の声」喫茶店というのがあってもよかったのではないかと、思えてくる。
 いや、もしかすると、あったのかもしれない。
 虫は秋であるが、夏の「セミの声」喫茶店というようなものがあってもよかったのではなかろうか。
 あの時代とはいわず、今の時代でも大いに通用するだろう。店内はセミしぐれ。
 うるさいくらいだ。
 「夏だなァ……」
 かき氷を食べながら。
 かき氷は、すぐとけてしまう。水になってしまう。それを、かき氷とみなすかどーかしらないけど。







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