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評者◆伊達政保
音楽と映像を中心にアメリカの黒人差別、人種差別、LGBTQ差別を論じた快著――藤田正著『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(シンコーミュージック・本体二〇〇〇円)
No.3513 ・ 2021年09月25日




■昨年コロナ禍の中にあってアメリカばかりか世界中を席巻したブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動。アメリカ大統領選挙、その後の混乱、今年に入ってトランプ支持者による米国会議事堂襲撃、バイデン大統領就任と続くアメリカの激動により、後景に退いたように見える。そうした一方で、アジアン・ヘイト・クライムの増加が報道されるようになってきた。
 昨年はBLM運動について雑誌の特集や本が出版されたが、どれもいまいちだった。しかし、年末に出た藤田正著『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(シンコーミュージック)は、BLM運動ばかりかその原点でもあるアメリカ黒人運動を考える上で最も重要な、黒人文化を表象する音楽と黒人を題材とした映画などの映像(ネットフリックスなど)を中心にアメリカの黒人差別、人種差別、LGBTQ差別を論じた快著だ。また現在問題となっているアジアン・ヘイト・クライムに繋がる日米戦争時にも触れている。しかし、本書は論壇から無視されているようだ。朝日新聞の書評欄でも少し触れただけ。ミュージック・エンターテイメント系の出版社というだけで軽視されたのだろうか。いや社会を論じる識者の多くは音楽を知っちゃいないのだ。
 本書の表紙と冒頭は最高のジャズ・シンガーと謳われたビリー・ホリデイ。話題のドキュメンタリー映画『ビリー』の主人公だ。彼女が1939年に吹込んだ「奇妙な果実」は、南部の木にリンチの縄で吊された黒人の死体の情景を歌っている。人種差別の告発でありアメリカ音楽史に残る名作である。昨年5月ジョージ・フロイド氏の警官による窒息死も首吊り死を想起させ、BLM運動が燎原の火のように再燃した。その渦中で人種差別の象徴「首吊りの縄」に関する事件が多発。この「首吊りの縄」が1月国会議事堂襲撃時にも登場したことは記憶に新しい。
 ブラック・ミュージックに造詣の深い著者は1960年代公民権運動とリズム・アンド・ブルースが両輪のごとく展開し、アレサ・フランクリン等、よってジェイムズ・ブラウンは「セイ・イット・ラウド・アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド」と歌ったとした。黒人暴動について「社会の矛盾が街路に噴き出すのは、高潔な指導者の思いとは異なる人、時と場所から始まることの方が多い。それが「大衆蜂起」というものだろう」と言う。ありゃ! 誰かのような。一方で『風と共に去りぬ』の中にKKKが常体だったアメリカ南部を見出す。ヒップホップとスパイク・リーの映画、ラップ、そしてビヨンセ「ブラック・イズ・キング」のメッセージなど。今年の続きが読みたい。







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