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評者◆伊達政保
これこそ当初、アングラ芝居が目指したものではなかったのか――羽村市宗禅寺駐車場で行われた水族館劇場の公演『アントロポセンの空舟』
No.3510 ・ 2021年09月04日




■昨年のコロナ禍にあって多くの劇団が公演の中止、延期を余儀なくされた。今年、2回目、3回目と引き続く緊急事態宣言下にあって、規制緩和により公演が再開されつつある。その上緊急事態宣言下にあってもオリンピックは開催するという。緊急事態宣言とはいったい何だったのか。いけねえ話がそれちまった。
 昨年、新宿花園神社での公演をテント設営も終え、全ての開催準備が整っていた状況で、公演中止の苦渋の決断をせざるを得なかった水族館劇場。なんと1千万円の赤字を背負い込むことになったという。昨年末にそうした経過を『報告・凍りつく世界と対峙する藝能の在り処』という冊子にまとめ上げた。コロナ下における劇団のドキュメントとして貴重な資料ともなっている。そして年末年始恒例の水族館劇場別ユニット「さすらい姉妹」寄せ場等公演も中止となってしまった。しかし、捨てる神あれば拾う仏もあり、この正月には東京都羽村市宗禅寺において「さすらい姉妹」公演を行うことが出来た。
 そして今回、緊急事態宣言の真っ直中、その羽村市宗禅寺住職の肝煎りで寺の駐車場を借り受け、水族館劇場は『アントロポセンの空舟』14日間の公演を行ったのだ。寺の墓場の後ろにそびえる巨大テント、まさにあの世とこの世を繋ぐ渡しに他ならなかった。新宿から電車で1時間強のこの場に観客が続々と集まってくる。運営及び感染対策もあって当日券のみということもあってかと思ったが、いつもの水族館劇場の観客層とは違い老若男女、子供たちもいる。寺の檀家さんたちが家族で来ているようだ。老婆心ながら難解な水族館劇場の芝居に耐えられるのだろうかと思ったが、それは杞憂であった。
 芝居は島原の乱から始まり、明治時代の天草・島原のからゆきさん、そして昭和の水俣病を横軸に、古代の忍歯王と大泊瀬皇子、中蒂姫が転生を繰り替えし皇統をめぐる抗争を縦軸として、「下妻物語」のイチゴと桃子のコンビ、三途の渡しの六問銭が狂言回しとなり、水俣診療所の女医が忍歯と時空を超えて往還する壮大な物語だ。そこにはメタファとして日本国家主義と福島原発事故批判があることは間違いない。相変らず桃山邑の本は難解だ。
 ところがこの芝居を地元の観客は喜怒哀楽驚愕を隠さずに楽しんでいる。役者が台詞に詰まれば笑い、コントで笑い、おどろおどろしいシーンには顔を背け、水の大瀑布には驚き感動する。そうなのだこれは観客にとって村祭りの歌舞伎芝居なのだ。これこそ当初、アングラ芝居が目指したものではなかったのか。いつの間にか内容にばかり囚われていたが、ここで再確認することが出来たのだ。







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